大人オリジナル小説

Re: 生きる希望を下さい ( No.162 )
日時: 2013/08/02 18:29
名前: 華世

♯47 世界に一つの



「どうして、これを……?」
 苗が植えられている白いプランターと千鶴さんを交互に見ながら訊ねる。
 すると表情が僅かに歪み、千鶴さんは首を横に振った。
「分からないわ。だけど、千聖ちゃんにどうしても受け取ってもらいたいらしくて」
「――分かりました、有難うございます。紗雪にもお伝え下さい」
 紗雪は何を思って、このプランターを私に渡したのだろうか。
 答えは結局分からないまま、千鶴さんからそれを受け取った。

 家に帰って私は自分の部屋のベランダにプランターを置いた。
 何もなかったベランダが少しだけ明るくなった気がする。
 とはいえ、まだ苗の状態でいつ花が咲くのかも分からないけれど。
「そういえば何の苗なんだろう?」
 以前に同じ事を聞いてみたが、紗雪は教えてくれなかった。
 気になるけれど、咲いてからのお楽しみでも良いだろう。
「千聖、夕飯出来たわよー!」
 1階から私を呼ぶ母の声がする。
 大声で「今行く!」と返してから大急ぎで階段を降りる。

 テーブルの上には、ほかほかのご飯に豆腐の味噌汁、それからサラダと私の大好きなハンバーグが綺麗に並べられていた。
 サラダには私の苦手なトマトが入っていたけれど、ご飯を食べられるというだけでもありがたい。
「いただきます」
 きちんと両手を合わせてから、夕飯を食べる。
 手作りのハンバーグはとても美味しかった。

 世界中には水を飲む事も食べ物を口にする事も出来ない人たちが沢山いる。
 飢餓で苦しむ外国の子供たちを、私はテレビで見た事がある。
 その子たちに比べたら、私はまだまだ幸せな方だと思う。
 だから、今ある命を大切に生きなければならない。
 一つだけの命。だから紗雪にも最後まで頑張って欲しい。