大人オリジナル小説

Re: 生きる希望を下さい ( No.65 )
日時: 2013/03/26 14:06
名前: 華世

♯15 変わりゆく日常  紗雪視点



 外は雨。
 梅雨の時期を迎えており、紫陽花も鮮やかに咲き始めている。
 そんな休み時間。

「神崎ぃーちょっと来てくれない?」

 この一言で教室中が凍りついた。
 声の主は宮坂由麻。教師たちの間で噂になっている不良のリーダー。
 不登校だったあたしだって、それくらいの情報は知っている。

「な、何の用ですか……?」
 クラスの目立つほうではない千聖は、怯えながら後ずさりした。
 あたしも一歩下がり、由麻を見る。
 それくらいの危険人物だとは誰もが認識していた。

「あぁ、用があるのは神崎一人だから」
 不安が過ぎる。嫌な予感。
 あたしも千聖も気づき始めていた。
 これは、悪い事が起こる前兆という事に。

「嫌だ! やめて!!」
 必死に抵抗する千聖を、由麻は冷たい目線で睨み付けながら引っ張って行く。
 あたしは千聖に叫ぼうとしたが、声が出ない。
 そんなあたしを鋭く睨む由麻。
 千聖を助けることもできず、ただ呆然と立ち尽くす事しかできなかった。


 自分の無力さにたった今、気がついた。
 情けない。
 その一言が頭の中で何度も繰り返す。
「あ、あたしは……」
 一言呟いて、静まり返った教室の床に跪く。


 雨は今も降り続いている。
 今の状況を何も知らずに。ただ、しとしとと。
 紫陽花は尚も鮮やかに、そして、怪しげに美しく咲いていた。