大人オリジナル小説
- Re: 生きる希望を下さい ( No.69 )
- 日時: 2013/09/10 19:59
- 名前: 華世
♯16 善と悪の境界線
「どういう事……」
一体、何を言っているのだ。
由麻の言っている事の意味が理解できない。
「これで何もかも楽になれるのよ」
由麻はそう言って、薬の入った注射の針を私の腕に刺した。
「ふふ、どうかしらねぇ……?」
変な感覚に包まれる。
体が一気に軽くなって、心地の良い気分だ。
「良い気分でしょう?」
そう問われた私は、虚ろな目を向けてこくりと頷く。
今なら全てを忘れられる。
母親からの虐待、先生たちの期待、辛い過去も。
全部全部全部全部、忘れられる。
そんな気がした。
いや、寧ろ忘れ去りたい。
現実か幻なのかも判らず、ただ答えを求めるだけ。
自分は実像か虚像か。
麻薬の迷宮からはもう、抜け出せない。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」
私はいつの間にか意識を失っていたらしい。
麻薬が強すぎたのだろうか。
だが、私には刺激が足りなかった。
意識を失ったとはいえ、まだまだ弱すぎる。
「もっと強いのを下さい……」
迷いもなく、私の口からその言葉が吐き出された。
由麻は不敵な笑みを浮かべて「いいよ」と答える。
そして先ほどよりも強い麻薬を私の腕に打った。
今までの生活が馬鹿馬鹿しい。
こんなに楽になれるなら、悪の道で生きていけば良かった。
嗚呼、本当に。
今までの私は一体、何だったんだろう。
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