大人オリジナル小説

Re: 死に方を知らない君へ。  ( No.42 )
日時: 2014/02/06 20:59
名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU

 家なんて狭い穴の中のようで、嫌だった。
 "今日は何もされないよね"
 "今日こそきっと笑ってくれる、またあの優しいお母さんに戻ってくれる"
 "もう無理なんだ、もう……あの頃のお母さんになんて、戻らない"
 希望を求める気持ちや諦めかけた気持ちが、左右に私の頭の中で揺れ動く。
 本当は、自分でも分かっていた。
 いつかはお母さんが笑顔と優しさを取り戻し、あの頃のようにお母さんと幸せに暮らせる――。
 そんなのは都合の良い、おとぎ話でしかない。
 お母さんは変わってしまったのだ。
 どんなに求めても、本当のお母さんは戻ってこない。

 だけど……ちょっとくらい信じさせて。
 "いつかは、きっと私に笑ってくれる"
――そう思わないと、自分が壊れてしまいそうだった。

 ふと顔を上げた時にようやく、こんなにも家が近くなっていた事に気がついた。
 私は大きく溜め息をつくと、何も考えないようにして家まで歩いていく。そこから家までは、5分もかからなかった。