大人オリジナル小説

Re: 死に方を知らない君へ。  ( No.55 )
日時: 2014/02/06 22:04
名前: 杏香 ◆A0T.QzpsRU

 台所に着くと、一番最初に目に入ったのは無造作に置かれているビニール袋だった。まず私はそのビニール袋の近くに行き、袋からお弁当を取り出す。
 中に入っていたのはおにぎり2個と、普通のコンビニ弁当、それから箸が一膳だ。どちらがお母さんの物かは、一目で分かる。
 私がおにぎり2個で、お母さんが普通のお弁当だ。だから私はまずお弁当の方を持って、電子レンジのある方へ向かう。
 それから電子レンジのコンセントを挿し、ボタンを手早く押して温める準備をする。
 その次に電子レンジの扉を開け、中にお弁当を入れて"あたためスタート"というボタンを押す。
 たったそれだけの、単純な作業。いつもの手伝いに比べれば、何倍もマシだった。

 お弁当が温められている時間は、短いようで長かった。
 自分の役目は終わったよと知らせるのは、電子レンジの軽やかな電子音。……それは、私の心とは裏腹に楽しげな音楽で。
 痛む心を押さえつけながら取り出したお弁当は、すっかり丁度良い温かさになっていた。
 私はそのお弁当を再び袋に入れ、お弁当の上に箸を一膳載せて慎重にお母さんの所へ持っていった。
 そうしてお母さんが居るリビングに着くと、私はお母さんの邪魔をしないような場所に立ち、控えめな声でお母さんに言う。
「その……お弁当、温めました」
 お母さんは何を言うでもなく私を睨みつけると、私の手から袋を乱暴に奪い取った。