第六声「どうもこんにちは『再会』です。」
廊下に出るとそこは静寂に包まれていた。
遠くに先生たちの話し声が聞こえてくる。
僕はそんなものには耳を傾ける事なく、目の前に立ついつか会った女子生徒を見つめていた。
城吾魔夫。
たちあ、まお。
切りそろえられた髪。冷たい目。
廊下に不自然に存在する彼女。
「やあ、久しぶり」
久しぶり。
彼女はそういうけれど、果たしてそうなのだろうか。
彼女と最後に会ったのはいつだったか。
そんなことも思い出せないのか、僕は。
喉がひゅーひゅーと音を立てて呼吸を繰り返している。
顎の辺りまで、汗が伝う。
「顔色、悪いよ?どうしたの?」
彼女が、僕に一歩近づいた。
反射的にあとづさろうとするが、壁がそれを拒む。
そして彼女は口元に笑みを浮かべたまま廊下の反対側から僕の手が届くくらいにまでやってきた。
「く、るな」
それは声ではなく、音のような感じがした。
彼女の動きが、止まる。
足が綺麗に揃えられた状態の彼女はふわりと眉をしかめた。
初めてみる表情だった。
初めてみる表情だった?
僕は何を考えているんだ。
僕と彼女はこの前初めて会ったんだ。
その時から彼女はずっと笑っていた。
だからこの表情をみるのは初めての筈で。
(ずっと前から魔夫は笑っていたよ。)
頭の中で知らない少年の声が響くのと、彼女の唇が動くのはほぼ同時だった。
「本当に覚えてないんだね」
彼女の体が階段のほうを向き、歩き出す。
僕はそれを震える眼球で見送った。
どくどくと脈打つ心臓はいつのまにか静かになっていた。
+ + + +
私は昔から、痛みに疎かった。
だから小学校の頃、おかあさんに殴られても泣かなかったし、包丁で切りつけられても、泣かなかった。
おかあさんはそれが気に入らなかったのか、もっと殴ってきたりしたけど。
それはある日のことだった。
いつものように真冬の外に放り出されたときだ。
痛みは感じにくいけど、寒いのはどうしようもなくて、公園のベンチに座り込んでいた。
白い息をかじかむ手に吐きつけて、すり合わせているとふいに頭上から声をかけられた。
「なにしてるの?」
鼻を擦りながら上を向くと、同じ歳くらいの女の子が立っていた。
綺麗に切りそろえられた髪を揺らして、彼女は私に微笑んだ。
「暇なら、いっしょに遊ぼう?私も今、暇なんだ」
それが、私と魔夫ちゃんの出会い。
それからよくいっしょにあそぶようになった。
魔夫ちゃんは今まで出会った人の中で一番優しくて、一番すきだった。
私の傷も心配してくれて、嬉しくてしかたがなくて。
魔夫ちゃんと出会って初めて《私は生きている》って感じることができた。
それと同時に痛みの感覚が正常になった。
殴られれば痛くて泣いて、包丁で切られれば痛くて泣き叫ぶ。
そんな当たり前のことができるようになって。
だけど。
魔夫ちゃんがいなくなってから、私は。
『キンコーンカンコーン』
過去の思い出を振り返っていると、授業の終わりの放送がなった。
まとめと宿題のことをぱぱっとノートに書き写し、席を立つ。
「あ、煤木さん」
廊下に出されていた煤木さんが気付けば戻っていて、私の机の前に来ていた。
てっきりノートを貸してくれ、みたいなことだと思ったけど、私がノートを掴んだ途端、顔をしかめたのだ。
「・・・やっぱ、なんでもない」
煤木さんはそういうと足早に彪さんのもとへといってしまう。
それに寂しさを少し覚えながら、私はノートを机の中に押し込んだ。
〜end〜
六話目です。
最近、一話一話が短くなってしまっています。
ごめんなさい。
今回は文がいつも以上にへたくそですね、すみませんでした。
次の更新はいつになるでしょうか。
いつも更新が遅くてごめんなさい。
謝ってばっかりでごめんなさい。
しかし、すごい台風だなぁ・・・。