第十三声「どうもこんにちは『黄』です。」
わたしはシアワセだった。
世界に何の不満もなかった。
だって、お母さんは優しいし、お父さんもよく一緒に遊んでくれていた。
だからわたしはいつも笑っていた。
そりゃあ嫌なことの一つや二つはあったけど、楽しいことも一杯あったから気にしなかった。
友達だって居た。
大切な友達。
優しい友達。
あぁ、わたしの人生は『あたり』なんだ。
『はずれ』じゃない。
だってこんなに毎日楽しいんだ。
『はずれ』であるはずがない。
そう思っていた。
だけど。
わたしがまだ幼稚園の頃。
同じ歳くらいの友達だって沢山いたけれど一番仲が良かったのは1つ年下の女の子と男の子だった。
わたしたちは毎日一緒に遊んで毎日一緒に帰っていた。
二人とも優しくて大好きで。
わたしはある日、そんな二人を騙そうと思ったんだ。
ちょっとの遊びのつもりだった。
暇つぶしのつもりだった。
つもり。
わたしは姉との打ち合わせ通り二人と遊ぶ約束をしてきた。
わたしのお気に入りの服を着たわたしの姉はわたしそっくりだった。
双子。
わたしと姉は双子だった。
それも綺麗な一卵性だったから顔も体つきもそっくりで見分けられるのはお母さんとお父さんくらいだったと思う。
ふたりで笑いあって
「これじゃあきっとわかんないよ」
って。
口を揃えて自慢げに言い合った。
わたしはわたしそっくりの姉のあとを付けていった。
どうなるか、みたかったから。
わかるかなってドキドキしていた。
今思うとわたしはわかって欲しかったんだろう。
二人なら、きっと分かってくれるって。
わたしと姉の違いくらい、分かるって。
信じてた。
待ち合わせには男の子のほうしか居なくてがっかりしたけどまぁ後で女の子のほうも騙そうと思った。
多分、姉も。
彼はわからなかった。
だって笑ってる。
何の疑問も抱いていないようでわたしじゃないのに、わたしに話しているときみたいに笑っている。
悔しかった。
なんだ、結局誰でもいいんじゃん。
わたしじゃなくても、顔がわたしみたいなら、声がわたしみたいなら、誰でも。
わたしの姉と彼が話しているのを見ていて急に私は淋しくなってきてネタばらしをしようと二人に近寄ろうとした。
「とーくんから離れろぉっぉおおおぉおおおぉおぉぉぉぉぉおぉぉおぉおおおっぉお!!!」
それは悲鳴にも似ていた。
声からかけ離れていた。
待ち合わせ場所の公園に勢い良く走って入ってきた彼女は二人にもう突進していった。
「っ」
何がしたいのかわからなくなった。
何をするべきなのかわからなくなった。
何が起こるかわからなかった。
何をしていれば、何を言っていれば。
この運命を避けることができたのか、わからない。
分からないことだらけのわたしはその場でただただ震えていた。
蹲るわたしの耳には彼女の悲鳴と、肉を裂く音と、わたしの名前を呼ぶ彼の声だけが届いていた。
+ + + +
そうなの。
わたしは本当に人殺し。
正真正銘の。
みんなの言うとおりだ。
わたしがバカなことをしなければ、姉はまだ生きていた。
わたしは本当にバカでどうしようもない奴だ。
今だってそう思う。
彼女は、彪は何がしたかったんだろう。
本当は分かっているのに、わたしはこの疑問を抱えたフリをしている。
卑怯でバカで。
そんなわたしはとーくんだけが支えだ。
今も昔も。
わたしはとーくんの中ではもういないことになっているけれどわたしはまだとーくんをみていられる。
だからわたしはまだシアワセなの。
〜end〜
十三話目です。
おひさしぶりです。
完結させたはずの「僕と戸口さんともうひとつ」を連載再開したので最近ちょっと忙しいかもしれません。
でもまぁ、そろそろこれが終わるので楽になるでしょう。
それを希望に頑張ります。
あ、そういえば目次書きましたよ!