第四声「どうもこんにちは『記憶』です。」
すきだった。
彼のことがせかいでいちばん、すきだった。
いつも、彼のとなりにいたあたし。
あたしのとなりでわらっていてくれた、彼。
だれのめからみてもあたしと彼はラブラブで、ほかのだれかがつけいるすきなんてなかったはずなのに。
あいつがきてから、彼はかわってしまった。
あたしとふたりでがっこうにいっていたのに、
「あいつもいっしょにいこう」
だなんていう。
あたしとふたりであそんでいたのに、
「あいつもいっしょにあそぼう」
だなんていう。
いつもあたしとつないでいたてもいつのまにかあいつといつないでた。
あいつと彼がけんかしても
「けんかするほどなかがいい」
なんていわれて。
どうしてだろう。
彼はあたしからとおくなって、それであいつにちかくなった。
どうすれば。
どうすれば。
あぁ、
そうだ、こうすれば。
彼がかえってきてくれれば、あたしはそれでよかった。
+ + + +
彌魅の口からその名前が出てくるなんて予想外だった。
だから僕は、ひるんだ。
そんなはずがない、とおもってしまったのだ。
こいつが魔夫のことを知っているはずがない。
「・・・しってるの?」
ひるんだ僕を彌魅がたたみかける。
言葉を、かえさなくちゃ。
そうおもうほどに、口が震える。
喉の奥から血の味がする。
「・・・しってるんだね」
彌魅の疑問はやがて確信へとかわっていく。
・・・おちつけ。
しらない。ぼくはしらない。
そんなやつ、しらない。
「・・・しらない・・・」
彌魅の顔が不機嫌そうに歪む。
もし、僕が知っていたとしても、それは凄く細かいことだ。
たとえば、彼女は何型で・・・だとか。
彼女の誕生日はいつで・・・だとか。
彼女の好きな人は××で・・・だとか。
会った事もないんだ。
僕と彼女は会った事も、会話したことも、笑いあったことも、一緒に遊んだことも、一緒に学校に行ったことも、手を繋いだことも、喧嘩したことだって、ない。
「・・・しら、ない」
「・・・そっか・・・」
彌魅は残念そうに、項垂れる。
「どうして?」
やっと落ち着いてきた僕が聞くと彌魅の目が一瞬、凍りついた。
なんだろう。
どうしたんだろう。
言葉に詰まっているようではない。
ほかに、いえない理由があるんだ。
根拠も何もないけれど、そうおもった。
「・・・さがしてるんだ」
ようやく、彌魅が淡く微笑む。
答えになっていないので、僕は繰り返す。
「どうして?」
今度は凍りつかなかった。
彌魅はただ微笑んだまま、
「・・・ありがとね、煤木さん」
そういって、教室を出ていった。
誰もいなくなった教室で僕は息を吐き出した。
「城吾、魔夫」
口に出したその名前。
僕はその人物のことを知らない。
知らないはずなんだ。
この間、図書室であった、それだけの仲。
その後、担任に怒られることはなかった。
書類はちゃんと《本当の》図書委員長に届いていたようだ。
何故だかわからない。
でも、あいつとは関わりたくない。そんな気がしていた。
+ + + +
家までの帰り道をとぼとぼと歩く。
日はまだ高く、道は明るい。
先生には学校になれたら部活に入れといわれている。
ぶっちゃけ、はいりたくない。
面倒だし、なにより、私にはしなくてはいけないことがある。
「・・・魔夫ちゃん・・・」
彼女の影を求めて、私は学校を転々としていた。
いつか、あえる。
そう信じている。
きっと元気に学校に通ってる。
そう願っている。
そうして、また私のことを呼んでくれる。
《アイツ》に気をつけながら、もうすこし、あの学校を探索しようと決めた。
豪快に蹴った小石が道端に落ちていた桜の上を通り過ぎていった。
〜end〜
四話目です。
出だしの文を何故変換しなかったのかにはわけがあったりします。
大概の人は分かると思います。
あとがきはこの辺にして。
それでは、また五話であえるといいです。
よんでくださってありがとうございました。