episode7 矢上恭平
「……」
龍太郎の手紙をこっそり見ながら、俺は数学の授業を受けていた。四之宮達は、榎本を閉じ込めたらしい。しかし、そこに工藤は居なかった。光が言うには、工藤も殴られていたらしい。
「……」
手紙の内容は、帰ってこない二人の事だった。どうして、帰ってこないんだろう。
そう考えていた時だった。
―――ガラッ!
勢いよくドアが開いた。数学の担当、木下が黒板からドアの方へ視線を映した。
「榎本、工藤! どうし……。何で怪我をしているんだ?」
その言葉に、教室がざわめき始めた。榎本達を見ると、頬にあざがあろ、制服が薄汚れていた。工藤は口元を触りながら、木下に返した。表情は冷たいままで。
「転びました。それと、朝練で使っていた道具を片づけていたら倉庫に閉じ込められてしまったから」
「あ、そ、そうか……。取りあえず、保健室へ行って来い。後で、倉庫の事は確かめておくから」
「はい。―――“琳華”、行こう」
二人はそのまま教室を出て行った。
***
「……工藤、榎本の事名前で呼んでたよな」
「そうだな。……多分、工藤はあいつ等にターゲットにされたんだと思うんだ」
一時間目が終わり、二時間目までの休憩の時間。俺と龍太郎はそんな事を話していた。
龍太郎は呆れながら、俺にこう言ってきた。
「よく飽きないよな。……俺達も、最低だけどさ。仲間だった工藤を怪我させるとか、俺には出来ないぜ?」
「俺もだよ」
龍太郎の言うとおりだ。俺だって、普通親友や友達に怪我をさせるとか出来ない。
だから、四之宮達のやり方が理解できなかった。そんな事を思っていた時だった。
「―――何で出てきてるの?」
四之宮の声だった。その声は、かなり機嫌が悪い様にも聞こえる。四之宮は桃沢達と一緒に、工藤の机を囲んでいた。工藤の隣には榎本も居た。工藤は座って、榎本は立っていて。しかし四之宮に対して、あの二人は冷静だった。
榎本は、大人しかった。けれど、やっと反撃が出来たのか、言いたかった事があるのか。榎本は珍しく口を開いていた。
「あのまま閉じ込められてたら、授業に出れねーからな。そして残念だったな。琳華はあの倉庫の抜け道を知ってた」
「はぁ?!! あんな倉庫に抜け道なんて―――」
桃沢が興奮しながら言ったが、榎本は事実を淡々と述べた。
「木の枝に、隠されてたから」
その言葉に、桃沢達は顔を見合わせた。焦っているのか、驚いているのか。色々な感情が混じった表情を浮かべていた。そんな桃沢達に工藤は堂々と言った。
「あたしは、お前等の所には戻らない」
「…は?」
日村がそう聞き返したが、工藤は無視して喋り続ける。
「あたしは、琳華が虐められている理由を知らなかった。だから、ずっと暴力を続けてた。けど、理由を聞いたら―――紘歌、最低だろ」
四之宮は眉を潜めた。野村や本田も顔を見合わせている。工藤は喋り続けた。
「直接言わなかった琳華も最低だろうけどな。けど、だからって死に掛けるまで暴力を続けて、虐めをするのは間違ってるだろ!」
そう言いながら、工藤は立ち上がった。
「あたしは、お前等の所には二度と戻らない。あたしは、琳華の味方をするよ。裏切りって言ってるもんな」
そう言いながら、工藤は笑っていた。狂った笑み、ってわけでは無かった。挑戦的な、挑発みたいな、そんな笑みだった。
「……お前等のいじめで、自殺なんかしねーよ」
工藤はそう言い捨てた。