episode 榎本琳華
地獄の休み時間が、始まった。
「ゲホッ…」
「いいシャワーだよね? タダでやったんだから、感謝しろよ! クズ女」
そう言いながら、桃沢さんは笑い始めた。女子トイレの個室に入った瞬間、水をかけられた。
酷い、こんなの酷い。
スカートを絞ったりして、個室から出て行くと今度は手で殴られた。
「うわ、汚ーい!」
「榎本さん、汚いから掃除してあげるね」
殴られた衝撃で、床に倒れたわたしを四之宮さんがトイレ掃除に使うモップで叩き始めた。
日村さんはホウキで叩いてきた。
「やめ、て……」
「はぁ? 聞こえねーっての」
「死んでくださーい」
三人は笑いながら、何度もモップやホウキで叩き、けり始めた。痛い、やめて、痛いよ。
工藤さん、大丈夫かな? 男子に殴られて大丈夫だったかな。
***
「……」
痛い、とても痛い。三人がかりでやらないで。
千原さんが居なかったから、まだマシかもしれない。でも、千原さんと古川君は最近居ない。
若林君も、たまに居ない。
どうして?
トイレの個室に入って、座り込みながらそう考えた。そんな時だった。
「琳華!」
「?」
ドアを開けると、そこには工藤さんが立っていた。雛ちゃんも殴られたらしく、口元には血が流れていた。
「雛、ちゃ、ん」
「あたしよりハデにやられてるね。保健室行くけど」
「……湿布貰いたい」
そう言いながら、わたしはゆっくりと歩く。雛ちゃんは足だけやられなかった様だ。
***
「また居ないし」
保健室の先生は居ない事が多い。お蔭でわたしと雛ちゃんは、包帯を巻く事に慣れていた。
「……雛ちゃん、大丈夫?」
「あー、うん。手加減してくれたみたいだ。紘歌達はもっと酷いから」
そう雛ちゃんが口にした時だった。
目の前の白いカーテンが、突然開いたのは。
「……工藤、榎本だったのかよ」
「雛……榎本……」
明らかに怒っている古川君と、目を見開いている千原さんだった。
何でこの二人はここに居るんだろう。
「……あんた等、何でここにいんの? 待ち伏せ?」
「ちげーよ。めんどくせぇからここにいんだよ」
雛ちゃんの言葉は、とても冷たい。四宮さんの仲間だからだと、わたしは思う。
「……雛、アンタ……止めたの?」
「止めた。琳華が死にそうだったから」
さらりと雛ちゃんはそんな事を告げる。確かに、頭に棒が振り下ろされそうになった時、雛ちゃんは止めてくれたのだ。
そこで、四之宮さん達も驚いて。