大人オリジナル小説
- Re: 暗闇の世界で、翼は溶けていった。 ( No.18 )
- 日時: 2012/03/08 21:10
- 名前: 来夏 ◆HpxJ7yQkz.
episode 榎本琳華 T
「もう戻ろうとは思ってない。あんた等の所に誰が戻るか」
わたしは雛ちゃんがこんな事を言うのは、当然だと思った。
雛ちゃんの口調と、目はとても冷たかった。わたしは千原さんと古川君を交互に見る。
良く見れば、千原さんの顔色が悪かった。古川君は、ずっと不機嫌そうだった。青色の瞳は何を見ているのか、分からない。
「……」
「琳華。あたしちょっと職員室行って来る。プリント取りに行く」
そう言って、雛ちゃんは保健室のドアを荒々しく閉めて行った。
残されたわたしは、まだ自分の手当が終わっていないので、先生がいつも使っている机の上にある救急箱から、湿布を取り出した。
そんな時、千原さんが震えた声でこんな事を言った。
「……雛も榎本も、何で紘歌が怖くないのよ?」
意外な言葉が聞こえた。千原さんを見ると、千原さんは震えていた。しかも顔色が異常に悪かった。
「…怖いけど、戦う。虐められる理由があっても、それで虐めるのはおかしいから」
自分だって悪い。けれど、おかしいって思うから。
でも自分があんな事を言わなければ、雛ちゃんだって虐められることは無かったかもしれない。
「……椎名と同じ状況になりそうだな」
「椎名?」
古川君の呟きに、千原さんが反応した。
椎名さんとは、このクラスで唯一の不登校児だ。椎名さんが学校に来ないのは、四之宮さんの虐めが原因らしい。
「大和が言ってたんだぜ。本当は、学校へ行きたい。けど、あいつが居るから行けねぇって」
四之宮さんは、どれだけの影響力を持っていたのだろうか。
同じクラスじゃなかったら、分からないが。
「……紘歌が、椎名の人生を奪った様なものなの?」
「まぁな。あいつを地獄に落とすとか、無理な話だろーな」
そう古川君は言い捨てた。その時の表情を、わたしは見ていない。
その時、わたしは包帯を巻いていたからだ。
勿論、千原さんの表情も見ていない。