episode 椎名杏子T
――人に翼があるとしたら、それはどういう意味でしょう?
多分わたしの翼は、汚れてる。虐めで身体も全部傷ついてるから、翼だって汚れてる。
その翼は、きっともう使えないって思ってる。
けど、その翼が使えるっていうなら――
それはきっと、あの人が使えるようにしてくれるかもしれないって、信じてる。
***
どうして、あいつはまた虐めるんだろう。
どんな理由を付けたって、虐めは許されない。
あいつは、虐めと言う犯罪に囚われているだけだ。
今度、あいつが虐められたらわたしはいい気味だと思う。
虐められるのも、当然だ。因果応報って言う四字熟語が当てはまる。
多分、わたしは助けないと思う。虐めは許せないが、四之宮に対しても恨みがまだあるからだ。
『学校来いよ、杏子』
学校へ行きたい。けれど、あいつが怖い。あいつにまた虐められる恐れがあったからだ。
大和がこう言ってくれるのは分かる。けれど、無理がある。あいつが居る限り、あの学校には行けないと思う。
「杏子、そろそろ大和君が来る頃じゃない?」
ドアの向こうで、お母さんはそう言う。お母さんは、わたしが苦しんでいた事に最初は気づかなかった。
だけどあの日、明らかにボロボロだったわたしが虐めに合っていた事に気づいた。
お母さんは、わたしの姿を見て大泣きした。お父さんは仕事から帰ってきて、事実を知った時に背中を震わせながら泣いていた。
こうなった理由を、わたしはやっと話した。お母さん達に、心配をかけたくなかった。
虐められてるって知ったら、きっと困らせると思ったから。
二人は、わたしが話した事実を聞いて驚いた。だけどそれでも聞き続けてくれた。
二人は、学校に訴えた。けれど、その訴えは学校には通じなかった。証拠もあったのに、結局四之宮はのうのうと生きている。
そして、わたし以外の学校の人を傷つけている。
「うん」
「杏子、あの子が来る様になってから笑う様になったわね」
お母さんの言う通り、少しずつ笑える様にはなって来ている。
こうやって会話している間に、客が来たと知らせるチャイムが鳴る。
お母さんは階段を降りていく。わたしの部屋は二階にあるからだ。
「いらっしゃい、大和君」
「どうも。これプリントっす」
それはやっぱり大和の声だった。