大人オリジナル小説
- Re: 暗闇の世界で、翼は溶けていった。 ( No.23 )
- 日時: 2012/03/17 15:56
- 名前: 来夏 ◆HpxJ7yQkz.
episode 音原霞
「――おい、四之宮居る?」
何で今週はこんなに人に話しかけられなきゃ、いけないのだろう。
良く晴れて、何の事件も起きなさそうな朝。あたしは早く学校に来て、読書をしている。しかし今はトイレに行っていた。
そんな時に、あたしは話しかけられたのだ。振り向くと、そこには赤いバンダナを巻いた男子。その後ろに誰か居るのが見えたが、そんな事は気にしなかった。
「……いつも通りにしていたけど」
「音原、だったか? ちょっと頼みてー事がある」
何でこうも頼みごとを頼まれなきゃ、いけないのだろう。
正直言って、あまりいい話では無さそうだ。
「……何であたしに頼むの」
「いつも一人で居るから」
「……頼みたいなら、さっさと終わらせて」
人と関わりたくないから、さっさと用件を言って欲しい。
――いつもより、四之宮が過激になっていたのは言わない方がいいかもしれない。
「傘、貸してくれねぇか?」
「……古い透明傘なら」
「ありがとな」
それだけか。あたしは気にせずに、教室へ向かった。この時、私はあの男子の後ろに居た人に気づけばよかった。
後ろに居た人が、これから誰かの運命を変えるなんて思って居なかったし、ましてや――
***
「そーれ! って、音原じゃん! ごめんねー、間違った」
「……」
入って来た瞬間、丸められた雑巾を投げつけられた。傘でガードしたからいいが。
見ると四之宮達がこちらを向いていた。そして近くには、榎本と工藤が頬や足を抑えているのが見える。
ああ、五月蝿い。その高い声が、とても五月蝿いから黙って欲しい。あたしは雑巾を投げつけて来た四之宮達を見る。自分達が良ければそれでいい、みたいな感じがする。
だがその時だった。誰かがこんな事を言ったのは。
「若林大和を攻撃しまーす!」
ターゲットだったのか、また。そう思って、私は後ろにあるドアを見る。自分の席に行きながら。
「……ちょっと、当たってないじゃない」
「傘があって助かったぜ」
赤いバンダナの男子は、透明傘で雑巾を防いでいた。
ああ、若林ってこの人か。成る程、これを予感して傘を貸してくれと言ったんだ。
「……まだ、こんな事やってたんだ」
呆れた様な呟きが、教室中に響いた。それはとても冷たい声。
だが、誰もしゃべって居なかった。辺りを少し見回したが、誰でも無い。傍観者は数個のグループに分かれて、様子を見ていた。ただ、黙って。
ふと気づいた。若林の後ろから顔を出した人物が、居た事に。
若林は驚いていたが、その後ろに居た人物はただ四之宮達を見ていた。
―――その表情は、とても冷たかった。
「え……あ、あいつ! 紘歌……」
「――!」
「椎名じゃねぇか!」
それは、不登校児だった女子――椎名杏子だった。