episode 音原霞
給食の前に体育、と言うのは良い方なのだろうか。あたしは授業なんてどうでもいいのだが。
「そういえば今日、男女体育館一緒だったっけ?」
「一緒ですよ」
どうでもいい。そんな話題を話せるのも、普通の人だから出来るのだろうか。
「D組の女子はドッチボール、D組の男子はバスケだぞー!」
担当の声が体育館中に響く。それにしても、ドッチボールは危険だと思う。またあの三人に定めるんだろう、あいつ等は。
男子はステージ前に集まって、色々なグループに分かれて話していた。女子は入り口近くのコートに散らばっている。
「そういやさー、四之宮さん達また虐めてるんだっけ?」
「何か若林ってのもターゲットに入れたらしいよ」
「うわ、うち等良かったねー。あんな人と同じクラスじゃなくて」
人の噂は七十五日、って言うけどもう広まっているんだ。しかもあの男子も……。
「……傘また買わなきゃ」
髪を一つに結びながら、小さくあたしは呟いていた。
***
あたしは必然的に外野だ。そしてあたしは試合を見物する。たまに投げて、一人に当てる。やる気など、あまり無い。
「音原さーん! ちょっと誰か当ててくんない?」
日村からボールを受け取り、あたしは投げる。この流だと、あの三人か。あたしは相手チームだった椎名に投げる。
椎名の右肩にボールは当たった。それを見て、日村が不気味な笑顔を浮かべる。
「おー、分かってるじゃん!」
ただ関わりたくないから、あんた達が望む人へ投げるだけ。あたしは正直体育はしたくない。めんどくさい事になるだけだから。
「椎名、アウト!」
担当の声がコート内に響く。
相手チームは三人。残っているのは、名倉と芳田と新野か。そして私の所は、四之宮と工藤、榎本だ。
嫌な予感しかしないのは、あたしだけだろうか。
「新野さん、こっち!」
和田が新野からボールを受け取り、投げる。バスケ部だからなのか分からないが、それはとても早い。
――試合は別に何も起きないからいいけど、さりげなくターゲットに当てようとしたり、責任を擦り付けるのは当たり前だった様な。
「……」
いつの間にか工藤がボールをキャッチしていた。そして工藤は、容赦なくボールを投げる。若干怒り顔だった。
「きゃっ!」
名倉が慌てて避けている。転がってきたボールをキャッチした三並が、今度は新野に投げる。
「わっ……」
新野にボールが当たったが、芳田がキャッチした為にアウトにはならない。
「桃沢さん、はい!」
「お、ナイスじゃん」
桃沢は芳田からのパスを受け取った。そして次の瞬間だった。
何かを口にしながら、桃沢は笑っていた。桃沢は榎本の背中に向かって投げた。それはとても早かった。
「――っ!」
ああ、やっぱりあるんだ。それに桃沢は、バレー部でアタッカーだった気がする。
――チーム分けをしても、こうなるぐらいなら体育なんて、無ければいいのに。