大人オリジナル小説

Re: 暗闇の世界で、翼は溶けていった。 ※少し修正中。 ( No.38 )
日時: 2012/03/25 19:07
名前: 来夏 ◆HpxJ7yQkz.

 episode25 若林大和U


「いきなり聞くんじゃねぇよ、テメェ」
「だってお前がこっち側な理由って杏子子なんだよな? だから、付き合ってるのかなーって」

 確かに俺は、杏子がきっかけでこっち側になった。けど、俺らは付き合ってるのか? いや、俺と杏子は告白とか、そんな事をしてない。

「……付き合っては無いけど、仲は良いよ」
「ふーん……」

 杏子の発言に、工藤は怪訝そうにしていた。でもそれ以上は聞かなかった。

「虐められてるって言う事は……確か貴方達のクラス、四之宮さんが居たわね」

 榎本を連れて来ながら、藤原はそう聞いて来た。
 藤原、そういえば一年前に転勤して来て――だったら、杏子の事件も知っているだろう。

「まさか、四之宮さんがやっているの?」
「……わたしの時と、同じです」

 杏子はそう返した。その声は、呟きにしか聞こえない。ただ、ちゃんと藤原には聞こえていたらしい。

「椎名さんも、かしら?」
「あたし等四人ですよ」

 藤原は名簿を取りながら、俺達にまた聞く。

「あの子だけかしら? 四之宮さんと仲が良かった子も?」
「真奈美と葵、南、野村、本田、古川って所?」
「まぁそれで合ってる。後は傍観者、って所だろ」

 俺達の発言を聞いて、藤原は紙に書いていた。名簿を見つつも、だが。

「……貴方達は、辛くない?」
「……わたしは、一人だったけど……。大丈夫です。今は、雛ちゃん達が居るから」
「呼び捨てでいいんだけど……」

 工藤は頭を掻きながら、榎本の答えを聞いていた。藤原はふうと溜息を付いて、こう言った。

「担任の先生に聞いてみるわね。……怪我をしたら、ここに来ていいから。見るからに、酷そうだから。それと、多分虐めている人達は事情があると思うわ」
「あいつ等に、事情ってあるんすか……?」

 俺にはそんな事すら見えねーぞ。ただ、俺は自然と言っていた。
 あいつ等に、事情なんてあるのだろうかと。

「虐めをする人にもね、小さな悩みや事情があるのよ。虐められる理由があったとしても、だからと言って虐めをしてはいけないのよ」

 そう言って藤原は俺達に聞いた。それは今まで話していた事とは、かけ離れた言葉だった。

「ところで、給食の時間が始まってるわよ?」
「げっ、忘れてた……」
「……雛ちゃん、椎名さん、若林君。取りあえず、あの教室に行こう」

 工藤が舌打ちをしたが、榎本はそんな事を気にせずにそう言った。
 “あの”って言葉が、結構発音が強かった気がするけど。

「まぁ、行くか」
「……うん」

 工藤と杏子がそう言って、一足先に保健室を後にする。その後を、榎本もついていく。俺は藤原に一言だけ聞いた。


「……虐めは無くならないって思ってるし、当たり前だと思ってるけど。杏子を虐めたくないから、こっち側に付くって言うのはダメっすか」


 藤原は、俺の言葉にこう返した。


「大事な人を守りたいなら、それでいいと思うわよ。若林君がした事は、誰かがこれは悪いとか、決める事じゃないから」

 そう言って、藤原は俺の背中を押して保健室から出す。普通に、工藤達は廊下で待っていた。

「いつでも、来ていいからね。行ってらっしゃい」

 そう言って藤原は笑った。