episode 矢上恭平
「合唱のリーダーとか決める。今から五分時間やるから、その時間内できめろ。決まらなかったら、推薦かクジで決める」
ぶっきらぼうに、多川はそうクラスメイト全員に言い放った。多川、生徒会会計だからかなり疲れてるんだろうな。そんな多川の近くには、名倉が黒板に白いチョークで字を書いている。
担任はまた居なくなって、虐めグループはやりたい放題。今も榎本達を虐めてる。こういう状態だから、多川はかなりイラついている。同情するしかない。
「恭平、どうする？ 俺、何か展示のリーダーやってたんだよな」
「龍太郎、それ確か女子の推薦だろ」
「あ、だったな。じゃあ俺、テノールのリーダーやっとく。恭平は副リーダーで」
「……まぁ、早く決めた方がいいな」
俺達は多川の所に行く。多川は俺達を見て、首を傾げた。
「決めたのか？」
「俺がテノールのリーダーで、恭平は副リーダー」
「じゃあお前等は推薦とクジ無しだな。名倉、書いといて」
「あ、うん」
周りが五月蝿い中、俺達はこんな感じで会話を進めていた。名倉は綺麗に俺達の名前を、係の名前の隣に書いていく。
＜合唱・テノールリーダー、副リーダー
鹿島龍太郎、矢上恭平＞
「……はぁ」
「多川、大丈夫か？ お前、会計の仕事もあるんだろ？」
「光で慣れてるから、平気だ」
顔色がかなり悪いけど、本当に大丈夫なのか？ そして話の内容に出てきた本人も、こっちに向かって来た。
「僕…広報だから、壁新聞」
「そういえばそうだったな」
多川はそう返して、メモしている。見るとそこには、俺達の名前の下に係名を書いたメモがあった。
「多川君、もしかしてあたし達マシな感じ？ 先輩、準備に大変そうだったんだよね」
「まだマシだけどな……二年は合唱と展示ぐらいだ」
他の中学は合唱コンクール・展示だけ。けどこの中学は、その二つの他に有志や演劇とかやるもんだから、高校並みの文化祭だったりする。
「そう思えば、あたし達は楽な方？」
「一年は演劇と展示、三年は合唱や演劇は無し。ただかわりに喫茶店とかそういうのをやる。二年は一番楽かもしれない。けどこの学校、部活も多いから部費稼ぎにもなる」
多川がとんでもない事を口にしているのは、気のせいじゃないよな？
「三年生は、楽しみだったりするの？」
「会長は楽しみにしてる。むしろ、三年生の方が文化祭は楽しみな方。一二年は、合唱練習と部活のもやらなきゃいけないから……」
そんな会話をしている間に、五分と言う短いようで長い時間は経っていた。
「取りあえず、壁新聞やりたい奴。美術部の新野、広報委員の濱田は強制。新野、他にやりたいのあるか」
「私、教科リーダーもあるから……。美術で作った絵の展示担当も、やる」
「じゃあ新野は決定。あと壁新聞は俺も入る」
本当多川は、ちゃんと進めるよな。
そんな多川に、四之宮が話しかけた。
「展示、あたしも教科リーダーだから。家庭科の。それとソプラノのリーダー、あたしがやるから」
「四之宮決定」
その瞬間、クラスメイトが次々と多川にやりたい係りを口にする。中には推薦もしている奴が居たけど。
そんなクラスメイトに、多川はいつも通りの態度で返していた。
「まずは並べ。それと部活に入っている奴は、それと平衡してやれ」
そう言って、多川はちゃんとまとめていた。虐めグループの奴等も、きちんとまとめていた。
