episode 榎本琳華U
わたしと同じで、雛ちゃ……雛も(ちゃん付けは嫌だといわれたから)、椎名さんも、若林君も、怪我をしていた。
若林君は頬や足、腕――至る所に、紫色のアザがある。唇は切れていて、とても痛そうだった。
椎名さんは、目元が腫れていた。再び受けた虐めで、また不登校になりそうで怖かった。
雛も、若林君と同じ状態だ。ただ、一人だけ水で濡らされていた。
わたしは、髪をボサボサに切られていた。この事は、わたしの心に傷を作った。それと同時に、限界も来てしまった。
***
このメンバーの中で、学校から一番近い家の人は若林君だった。わたしや雛の家は遠くて。椎名さんの家は若林君の家から少し歩いた所に、あるらしい。
そんな感じで、若林君の家にお邪魔していた。その理由は、怪我の手当とかだ。
若林君の部屋は、必要な生活道具が揃っていた。漫画とか、そういうのは無くて。
ただ、音楽の機械やCDが転がっていた。そして全体的に、赤い物が多い気がする。
「いってぇ」
「みんな、大丈夫?」
一番マシだったかもしれないのは、椎名さんだった。今は若林君の怪我の手当をしている。雛とわたしも、先に手当をしてもらった。
「あたしは平気だって。けど琳華の方が……」
「……」
わたしは、ここに来てから一言も喋れなかった。短く切られた髪を見て、明人お兄ちゃん達はどんな反応をするんだろう。
「先生達にこれ見せても、あいつ等平気そうだよな」
「うん。……だから、いつも見ている人達を味方につけるしか無いんだよ」
「でもさー、ウチ等の他に居る? 虐めを良く思ってない奴」
椎名さん達がそう話している中、ふとある事を思い出した。
「…戸川君は?」
「……そういやあいつ、倒れたな」
「あ、もしかしてあいつ。虐めの事、良く思ってないとか?」
雛の勘は、的中している。多分戸川君は、良く思っていない筈だ。ああやって叫んだ理由は、分からないけど。
「なぁ」
若林君はポツリと呟いた。
「……俺、流星と話してぇ。あと、千原に聞きてぇ」
そして、若林君はわたし達が知らない事実を口にした。
「――あいつが、虐めに乗り気じゃない理由を聞きてぇって思う」