大人オリジナル小説

Re: 暗闇の世界で、翼は溶けていった。 ※少し修正中。 ( No.56 )
日時: 2012/04/21 14:41
名前: 来夏 ◆HpxJ7yQkz.


 episode 椎名杏子


「俺らの言う事、信じると思うのかよ? 榎本」
「思わないけど、やってみなきゃ分かんないよ……」


 榎本さんと大和は、そんな事を話しながら廊下を走る。わたしはそのあとをついていく。
 けれど、わたしの時、先生たちは信じなかった。


「……きっとあいつの方がまだ信頼されてるんだから……」
「でも、それでも、雛を助けないと……」


 短くなった髪を揺らしながら、榎本さんは走っている。大和もそのあとをついていく。
 わたしは少し遅れてるけど。
 その時、声が聞こえた。わたしにとって、憎いあいつの声が。


「――先生、見ましたよね? 殴ったのは工藤さんですし。私や日村さん、桃沢さんは悪くないですよ」


 そうやって、言い逃れしてきたあいつの声。
 信頼を得ていたあいつの得意技の様なもの。


 憎かった。
 あそこまでして罪に囚われない、あいつ。
 あいつを信頼しているこの学校の先生達も。


 信じてもらえないかもしれない。
 けれど、行かなきゃ。説得しなきゃ、すべてあいつの思うツボだ。


「――榎本さん、大和。行こう。信じてもらえないかもしれないけど……けど、もう……」


 榎本さんを守ろうとした、工藤さんを悪者になんかさせたくない。