大人オリジナル小説

Re: 暗闇の世界で、翼は溶けていった。 ※少し修正中。 ( No.66 )
日時: 2012/11/24 20:04
名前: 来夏 ◆mEmTKV/S.k



 episode 椎名杏子



「……」


 大和のお蔭で、この学校にも来る事が出来た。そして、四之宮を停学にまで追い込めた。
 けど、どうせ戻ってくる。彼女は果たして反省するのだろうか?


 今、わたしは図書室に居る。榎本さんと一緒に。
 大和は、屋上に居る。


「……榎本さん。工藤さんの家に、今日行かない?」
「え?」


 ずっと落ち込んでいた榎本さんは、顔を上げる。目元の下は、隈が出来ていた。



「……心配なんでしょ? 行ってみよう」
「……う、うん。でも、椎名さんはいいの?」
「何で?」


 わたしは、榎本さんの答えに首をかしげた。


「……若林君と一緒に居なくて、いいのかなって」
「……付き合ってないよ。だから、行こう」


 
 工藤さんが、心配だった。
 先生たちに言ったあの日、親を待っていた工藤さんは、ため息を付きながら言っていた。




『あたし、母子家庭なんだよ。母さんを、こんな事で呼び出したくなかった』



 
 きっとお母さんは家に居ないのだろう。おそらく、仕事で。
 なおさら心配だった。



 わたしは、毎日お母さんが居たから−−家で一人は、考えられなかったから。
 だから、行ってみようと思った。



「うん。あ、椎名さん…」
「何?」
「……名前で、呼んでいいかな? 杏子ちゃん、って」


 名前−−名前なんて、大和に呼ばれたぐらいだった。
 逆にびっくりしたけど、わたしは頷いた。


「いいよ。榎本−−琳華ちゃん」
 


 お互い呼び合ったわたし達は、笑いあっていた。