episode 古川流星
「――千原?」
屋上から俺だけ出ていく。ある一人が心配だったから。
保健室へ入る。藤原は居なかった。会議だか何かで居なさそうだ。
俺は多分いる千原に声をかけた。
だが、千原が返した声はとても震えていた。
「……ふ、る、……か、わ……ど、どうしよ、ねぇ、どうしよ」
また怯えてる――てか、どう考えても尋常じゃねぇくらい怯えてる。
「千原―――!?」
ベッドを仕切っているカーテンを開けた瞬間、俺は引っ張られた。
そして何かが俺の身体にくっついてきた。
自然とベッドの上に座っているみたいな、そんな感じだった。
「……千、原?」
「古川、古川……。あたし、どうすればいいの?」
何かが――それは、千原だった。
てかいてぇ。つかバレたらやべぇ。
俺は冷静にカーテンを閉めて、千原を見る。
こっちを見上げる千原は、涙目だった。
つか、何で泣いてて俺に抱き着いてるんだよ。
「……おい、何があった」
「真奈美に……言われた。紘歌を、シカトしよーって」
おい、そこまで話が進んでたのかよ。
そんで千原が泣く理由はなんだ?
「……じゃあ、お前何で泣いてるんだよ」
そっと両腕で抱きしめながら、俺は聞いた。その身体が震えてたし、こいつはこうしないと落ち着かなかった気がする。
「……だってさ、アタシ達だっていじめてたじゃん。なのに、シカトって……そんなの、逃げてるだけじゃん……」
そう言いながら、千原は俺の腰に腕を回した。そして独り言のように呟く。
「紘歌にすべてを押し付けるって、どうなの……? アタシ達だって、悪いじゃん」
「どうすればいいの? アタシは。ねぇ、どうすればいいの?」
んなの、俺にもわかんねぇよ。
でも、俺は大和に味方をする。こんな形で駄目なんだろうけど。
「俺は、大和に味方するからよ。千原は、千原で決めろ」
「……若林、の?」
俺から離れて、見上げる千原。
いまだに零れ落ちていく涙をぬぐいながら、俺は言った。
「やっぱり、話してぇんだ」