大人オリジナル小説

Re: 暗闇の世界で、翼は溶けていった。 ※少し修正中。 ( No.74 )
日時: 2013/04/14 12:06
名前: 来夏 ◆2ZBHn0dH/Y



 episode 鹿島龍太郎



「はぁ……」


 明日、何かが起きる気がしてならない。部活にも集中出来なかったので、先輩に休憩を貰った。今日は参加しなきゃ、良かったかもしれない。
 掲示板前まで行くと、人がいた。綺麗な栗色の髪の一部を小さな三つ編みにしていた女子。
 後ろの一部を伸ばして、それ以外はショートカットという、不思議な髪型をしていた。
 

 ――八神だ。
 本人は俺の足音に気づいたのか、掲示板から視線を外してこっちを見る。


「あ、鹿島君」
「八神」


 俺はなぜかほっとして、少しだけ笑った。
 八神は聞いてきた。俺は普通に返す。


「練習は?」
「練習してたけど、休憩もらったよ。ちょっと集中出来なかったし」
「珍しいね」


 そう言って、首をかしげていた。そんな八神の目の前で、俺は独り言のように呟いた。


「明日から、四之宮復活だからなー……。みんな、いつも通りシカトだろうけど」


 独り言がどうにも聞こえたらしい。八神はまた聞いてきた。予想外の一言だったけど。


「ねぇ、鹿島君。巻き込まれないの? ちょっと心配だった」


 俺は驚いた。
 まさか八神が心配しているとは、思ってなかったし。


「え、俺の事心配してたのか?」
「うん。それに……四之宮さんが停学してから、調子に乗り出してる人達居るからさ」


 そう言って、八神は「ふぅ」と小さくため息を付いた。


「あたしのクラスでもね、いじめは起きてるんだ。こっちは、ターゲットを一日ずつ変えてるだけだし、暴力は無いんだけど」
「……お互い、大変か」


 八神の言葉に、俺はそう返す。
 八神は首を縦に振った。


「そうだね。あたしは、自分達のクラスよりも……そっちの方が怖い」
「そうだよな……。八神」


 俺は独り言のように、八神に言った。



「――いじめを無視してた側だって、罪はあるよな。俺らだって、罪はあるよな」
「……うん、そうかも。でも、人ってそうだから、仕方ないよ」


 俺らはそっと掲示板の前に座って話した。俺は、少しずつ話すだけで。八神はそれを聞いて、答えを返してくれるだけで。


 ただ、聞いてくれるだけで良かった。
 このまま、何も起きなければ良いのに、と願いながら。



 でも、その願いは無残にも砕け堕ちた。