episode 鹿島龍太郎
「はぁ……」
明日、何かが起きる気がしてならない。部活にも集中出来なかったので、先輩に休憩を貰った。今日は参加しなきゃ、良かったかもしれない。
掲示板前まで行くと、人がいた。綺麗な栗色の髪の一部を小さな三つ編みにしていた女子。
後ろの一部を伸ばして、それ以外はショートカットという、不思議な髪型をしていた。
――八神だ。
本人は俺の足音に気づいたのか、掲示板から視線を外してこっちを見る。
「あ、鹿島君」
「八神」
俺はなぜかほっとして、少しだけ笑った。
八神は聞いてきた。俺は普通に返す。
「練習は?」
「練習してたけど、休憩もらったよ。ちょっと集中出来なかったし」
「珍しいね」
そう言って、首をかしげていた。そんな八神の目の前で、俺は独り言のように呟いた。
「明日から、四之宮復活だからなー……。みんな、いつも通りシカトだろうけど」
独り言がどうにも聞こえたらしい。八神はまた聞いてきた。予想外の一言だったけど。
「ねぇ、鹿島君。巻き込まれないの? ちょっと心配だった」
俺は驚いた。
まさか八神が心配しているとは、思ってなかったし。
「え、俺の事心配してたのか?」
「うん。それに……四之宮さんが停学してから、調子に乗り出してる人達居るからさ」
そう言って、八神は「ふぅ」と小さくため息を付いた。
「あたしのクラスでもね、いじめは起きてるんだ。こっちは、ターゲットを一日ずつ変えてるだけだし、暴力は無いんだけど」
「……お互い、大変か」
八神の言葉に、俺はそう返す。
八神は首を縦に振った。
「そうだね。あたしは、自分達のクラスよりも……そっちの方が怖い」
「そうだよな……。八神」
俺は独り言のように、八神に言った。
「――いじめを無視してた側だって、罪はあるよな。俺らだって、罪はあるよな」
「……うん、そうかも。でも、人ってそうだから、仕方ないよ」
俺らはそっと掲示板の前に座って話した。俺は、少しずつ話すだけで。八神はそれを聞いて、答えを返してくれるだけで。
ただ、聞いてくれるだけで良かった。
このまま、何も起きなければ良いのに、と願いながら。
でも、その願いは無残にも砕け堕ちた。