episode5 音原霞
次の朝、教室へ入った時、気づいた事があった。珍しく虐めグループとターゲットの榎本が教室に居なかった。
教室へ入り、自分の席へ座る直前だった。珍しく、人に話しかけられたのは。
「音原さん」
声のする方へ振り向くと、赤毛の肩まである髪の女子がいた。いまいち名前と顔が一致しない。あまり喋らないから、仕方ないか。
「……何」
元々冷たい雰囲気を持つらしいあたしの声。女子は声を聞いても、特に反応を示さなかった。
「榎本さん達、見なかった?」
「……」
女子の問いかけに、あたしは首を横に振った。見てもいないし、いじめグループも見つからなかった。
女子は溜息を付きながら、頭を掻いた。
「分かった。音原さん、ありがとう」
そう女子がお礼を言った時だった。突然ドアが勢い良く開いたのは。
「っ、うっ……」
「光?」
薄い茶色の髪を伸ばした、汗を額に光らせている男子の顔色はかなり悪かった。
“光”と呼ばれた男子に近寄ったのは、髪が坊主の男子だった。
「光、どうした?」
「……榎本、さんが……閉じ込められて、何か、されてる」
教室の空気が一瞬で凍った。すると教室のドアを開けるものが居た。
それは、黒のポニーテールで眉を八の逆の字に剃った、怖い印象を与える女子が居た。
だけどその女子は呆れた様な表情を浮かべていた。そんな女子に、誰かが話しかけた。
「南……」
「美沙。また、榎本を殴ってるんだよ。まぁ雛が飽きたって言って雛も一緒に殴られてたんだけど」
その瞬間、光という男子が口にした。ある衝撃的な事実を。
「あ……く、工藤さんも殴られてた……。それで、何か、鍵閉めて、て」
「は? え、濱田。それいつ見たの?」
南と呼ばれた女子は、入り口近くで丸坊主の男子に色々聞かれていた光に話しかけていた。
「さ、さっき! ち、千原さんは……見てないの?」
「あたしは、葵に伝えられただけだから。あたし、いつも朝は遅く来るから」
そう言いながら、舌打ちをした。
「……ターゲット、また増えたんかな」
そんな事を、南と言う女子は呟いていた。