episode 近藤理穂
「ひっ……!」
机の下に隠れながら、耳を塞ぐ。それでも聞こえる罵声。
私は、泣いていた。怖すぎて、泣いていた。
その理由は、四之宮さん達の喧嘩だった。
野村君達が必死に止めようとしてくれてるけど、それでも止まらない。
「あんた達だって、加害者なのよ! あたしだけが悪い訳じゃないわよ!!」
確かにその通りだけど、こんな事して許されるとは思わない。
逃げたくても、逃げれない。どうすればいいの?
泣いていると、声が聞こえた。
「近藤、大丈夫だから! 尚人達が先生達呼んできてくれたし、大丈夫!」
「今野……君……」
そういう今野君も、声は震えていた。そして今野君は頭を撫でてくれた。
撫でられても逆に涙が溢れて、私はさらに泣く。怖い、この状況があまりにも怖い。
今でも怒声が響き渡っている。
「いってぇんだよ! 偉そうに、上から目線でうざいんだよ!」
「はぁ!!? 何よそれ! あんたも人の事言えないじゃない!」
桃沢さんはいつの間にか落ち着いていて、ただ立っていた。
本田君と野村君は、四之宮さんと日村さんを羽交い絞めにしながら止めていて。けれど、それでも二人の怒声は響く。
「あんたがいじめさえしなきゃ、こんな事にならなかったのに!」
「うるさいわよ! あんただって楽しんでたくせに、人の事言えるの!!?」
「はぁ!!? お前のせいだろ!」
そして―――殴り合いが起きた。野村君と本田君は鼻に肘打ちをされて、うずくまっていた。先生達の声も聞こえるが、二人は止まらなかった。
痛い音が聞こえるが、みんなは怯えるばかりだった。
今野君はその間にも、ずっと頭を撫でてくれた。顔色は悪かったけど、ずっと撫でてくれていた。
「もう……やめてよ……お願い、やめてよ……」
私は両耳を両手でふさぎながら、そう呟いた。
声にならない、声で。