大人オリジナル小説
- Re: どこへも行けない ( No.4 )
- 日時: 2012/05/18 20:16
- 名前: かな
3つめ
「おふろ」
居間でチョコレートを食べて、テレビを見ていると、お母さんが、「おばあちゃんはよ寝て。」とおばあちゃんに対して怒りました。9時半でした。いつもは8時半までにおばあちゃんはおじいちゃんと一緒の部屋で寝ていました。
おばあちゃんは、「けんど坂本が帰らんと寝れん。」とお父さんを見て言いました。坂本は父方の叔父の名前です。
「おばあちゃん、お父さんは高野よ。」
私は自分たちの家の名字を言いました。
おばあちゃんが「あんた坂本のこかね。」といいました。
おばあちゃんはいままでご飯の時間や料理の作り方を忘れることはありましたが、家族の顔を忘れることは今まで一度もありませんでした。
「おばあちゃん章子は坂本やないよ。」
お母さんが大きな声をだしたあと、顔を両手で覆ってぶつぶつと何か呟いていました。
「私は、高野のこよ。」私が言いました。
「あんたどこからかよっとるかね。」
「うちから電車で緑洋高校に通っとるよ。」
「やったらどこで寝るかね。」
「二階の部屋で寝るよ。」
「ほれやったらはよう寝りい、うちは片付けせんといけん」
おばあちゃんは台所の洗い場に行こうとしました。うちがやるけえと言って止めました。
「おばあちゃんおばあちゃんおじいちゃんが待っとるけえ早ようね」
私がいいました。お母さんは
「章子後は頼むけえね。」
と二階に上がりました。
「さっき上に上がったは坂本の陽子かね。」
「坂本はもうおらんよ、いまおるのは、みんな高野さっき上がったのは高野の三代子。」
と私はお母さんの名前をいいました。
「おばあちゃん、時間遅いけえ早よう寝よう。」
「けんど、まだお茶飲まんといけん。」
とおばあちゃんはお茶を飲み始めました。
たくさんの量を飲もうとしたので、
「あとはうちが飲もう」と言って残りのお茶を洗い場に置きました。
「おばあちゃん、寝ようや」
「あんた風呂は入ったかね。」
「まだ入っとらんよ、おばあちゃんが寝たら入ろう。」
「バカ言わんとき、早よ入りい、あんたが入ったらうちはよう寝る。」
おばあちゃんの言うとおり、私はお風呂に入りました。お風呂から上がると、もう10時に差し掛かっていました。居間ではおばあちゃんがテーブルの隅っこに正座していて、お父さんはテレビを見ていました。
「おばあちゃん上がったけ、寝よ。」
「あんた、まだおったかね、早よ帰りい。」
「ここはうちの家よ。」
「あんたあ坂本の子やろ。」
「うちは、高野の章子よ。」
私は大きな声で言うと、おばあちゃんは急に笑いはじめました。
「あっはっはおばあちゃん勘違いしよった。あんた章子やね、坂本はおらん。ああボケたらこうなる。うちはもういけん。あっはっは。」
私もおかしくなって笑いました。
「へっへっへ、おばあちゃん勘違いしよったやろ、いけんよ自分の孫間違えたら。」
「いけんかった。そうやったな章子やったな、そいで上が佐織で下が香奈かね。てっきり坂本の子やとおもっとった。いよいよ耄碌しはじめた。あっはっは」
「そうよ、そうよ、上に佐織と、下に香奈がおるんよ。よう分かっとるやんか。」
私には佐織と言う姉と香奈と言う妹がいました。おばあちゃんは大分記憶がしっかりしてきたようだと私は安心しました。
「けんど、まだ坂本の親が帰らん。」
おばあちゃんがテレビを見ているお父さんを指差しました。
そういうやり取りを数回繰り返しました。その後おばあちゃんはトイレに行ったあと、もう一度私を坂本の家の人間と間違えました。
そして、
「おじいちゃんが心配や」といって寝室に行きました。
寝室の戸の隙間から中を覗くと、おばあちゃんはおじいちゃんに掛かっていた布団の乱れを直していました。
居間に戻ると、お父さんが相変わらずテレビを見ていました。私に気づくと、「おばあちゃん寝たかね」と尋ねました。
「寝たよ。」
「確実に悪うなってるな。ずっとこのままだったらいけんな。」
お父さんはテレビを見ながら言いました。11時を過ぎていました。
「おばあちゃん、起きながら夢を見とったとだけと思うんよ。明日になったらようなっとるよ。」「いやそれはなかなか難しいやろう。」
その後、私はおばあちゃんが残したお茶を流して二階に上がって寝ました。私は台所の洗い物を片付けるを忘れていました。それに気付いた時には布団を敷いてくるまっていたので明日、明日片付けようと思いながら眠りました。