大人オリジナル小説

Re: 1年B組の悪魔 ( No.2 )
日時: 2012/08/13 20:32
名前: テントウムシ ◆uyBOASgJA6

【第一話】船川陽奈子SIDE


「はい、お水だよ♪」

楽しげな浅田さんの声が、私の頭の中に響いてくる。

目の前には掃除用の雑巾を洗って茶色くなった水が、バケツいっぱい出されていた。
臭いも見た目も、人間の体内に入っていいっものじゃない。

鼻をふさぎたくとも、地面に押し付けられている私には何もできず、その汚臭に吐き気さえしてくる。
どこをふいたらそうなるの!?

「ほら!飲みなよ!」

取り巻きの女の子たちが、私のこげ茶のセミロングを引っ張り上げる。
皆にやにやと意地悪そうな笑みを浮かべて……私を助けようとする人は誰もいない。
女子も男子もそれは同じ。

1年B組は、浅田さんの独裁国家だ。

総理大臣の娘である浅田さんに逆らえる人なんていない。
初等部の後半あたりから、クラス全員で内密にかつ盛大に『いじめ』が行われていた。
もちろん、浅田さんを筆頭に。いじめを始めたときはまだ、総理大臣の娘じゃなかったのにな……。

私、船川陽奈子は、今年に入って二人目のターゲットに選ばれてしまった。
理由は簡単。
もともといじめられていた戸川桃子を助けてしまったから。
助けてたって言ってもそんなかっこいいことはしてない。する度胸なんてない。

ただ追い掛け回され疲れていた彼女に、水をあげたってだけ。
たったそれだけがばれて、ターゲットは私に変わった。
今まで仲良く話していたはずのみんなが、途端に悪魔のように変わってしまった。

当の戸川桃子も教室の隅で震えているわけではなく、私にあの茶色い水を飲ませようとしている。

他のクラスの人も先生もいじめの存在に気づいてないから、助けを求めるわけにもいかない。

さっき挨拶をしていた教育実習生だって、いいクラスだなとしか思ってないだろう。

まさに地獄だ。

「飲まないの?仕方ないなぁ……」

浅田さんは少し黙ると、チラリと自分の幼馴染である宮浜君を見た。
宮浜君はにっこりと笑って見せる。
誰もが好む、太陽のようなほほえみ。
彼の紺色の髪が窓から入る風に揺れた途端、窓側にいた歌津君が窓をぴしゃりとしめた。

そして宮浜君は優しげな表情のまま私に近づくと、バケツを持ち上げた。

バシャッ!

私の上でひっくり返す。
ぽたぽたと茶色い雫が、私の髪の毛や頬を伝った。

「やだぁ、きったなーいっ」

笹原さんが甲高い声で、わざとらしい悲鳴をあげる。
周りの女子は憐みの視線をむけつつ、くすくすと笑っていた。

「陽奈子ちゃん、制服びしょびしょだね。着替えたほうがいいよ」

浅田さんが私に手を伸ばす。

「いやっ」

私は思わずその手をはらってとびのいてしまった。
クラスメートがざわつき始める。

やっちゃった……
はたらかない私の頭でもこれくらいわかる。
浅田さんの手をはたくなんて、死刑並みの重罪だ。

浅田さんは赤く晴れた自分の手をさすり、私を見つめた。
大きな二重の瞳を細め微笑むその姿は、私の中では不気味にしか映らない。
腰まである長くきれいな黒髪も、ただただ今は怖いだけ。

私は思わず教室を飛び出した。

「あ!船川逃げたぞ!」
「捕まえろ!」

私へ向けられる鋭い声が、まるで背中に突き刺さるように痛い。

「くっ……うぅ」

心が苦しみの声を上げたとき、涙が形となってこぼれた。

どうしてこんな思いしなくちゃいけないの?
私はなにも悪いことなんてしてないはずでしょ?
どうして皆変わっちゃうの?
友達だったんじゃないの?

全部全部浅田さんがいけない!
彼女が女王様なかぎり、私は一生このままだ。

浅田さんなんて……















イナクナッチャエバイイノニ。