大人オリジナル小説

Re: 1年B組の悪魔 ( No.5 )
日時: 2012/08/13 19:40
名前: テントウムシ ◆uyBOASgJA6

【第四話】笹原美織SIDE

葵は頭がいい。
さすが総理大臣の子供って言えるくらい。
噂じゃ高校生の問題も、簡単に解けるって話。
そんな葵だから、ふつう考えないような遊びを考え付く。

葵の考えたそれは、想像を絶する面白さだった。
私はもともと強気なタイプだけど、弱い者いじめなんてしたことがなかった。本当よ?

でも……きづいたんだ。
それの、面白さに。葵のおかげで、ね。

「……っ、もう いやぁ……!」

私、帆花、ねお、桃子の目の前でしゃがみこんでいる船川が、しゃくりを上げながら涙をこぼした。
彼女の服ははだけていて、傷だらけ。
ちなみに場所は更衣室で、私たちは携帯をカメラモードにしていた。

ここまで言えば、何をしていたか想像がつくでしょう?

葵は更衣室のはじにあるベンチに座っている。
ニコニコと無邪気で可愛い笑みを浮かべて。
葵は基本的にいじめには参加しない。

それは当たり前。だってどこの国でも指導者は命令を下すのが仕事でしょ?
葵はただ楽しんでいればいい。

どうしてメインのいじめメンバーに、元いじめられっこがいるかって?
それが葵の決めたルールだからよ。

葵は、その時もニコニコしながらこう言った。

『あのね、このルールは絶対に守ってほしいの。それは……この遊びからは解放された人は、必ず私の傍にいてね」

一見穏やかな台詞。
でもこれは仲良しとか友達とか、そういう単語は一切通じない、彼女の中の秩序。

一度いじめられた人間は、その苦しさを知っている。
先生たちは信じないと思うけど、もしもいじめのことを話されたら困るでしょ?
俗にいう熱血教師ってのもいるかもしれないし。

だから葵は見張ってるの。
いじめという罪を犯させるの。
このクラスの地獄に誰も気が付かないように。

「さ!それとんな」

私は船川に目を向け、彼女の上半身の下着を指さした。
途端に船川の肩はびくっと動き、桃子が私を見つめた。
ねおは「いーねぇ!」と他人事のように笑っている。
私にとっても皆にとってもただの遊びだものね。

「い……やだっ!」

船川は自分を抱くように体を丸め、震える声で叫んだ。
目からこぼれおちる雫は、心なしか大きくなっている。

「おいっ脱げよ!!」
「帆花ちゃん」

帆花が船川の服につかみかかった瞬間、葵が音を立てずに立ち上がった。
いつもの天使のようなほほえみを作り、小さく口を開く。

「もうやめてあげなよ」

そして優しげな口調で言った。
帆花は大きなその瞳をさらに大きくして、ためらいながらもその手を離す。

「陽奈子ちゃん」

葵は突然船川に呼びかけた。
船川は青ざめてしまった顔を彼女に向ける。
葵は一瞬笑顔じゃないような気がしたが、再びニコッと音が鳴るような笑みを見せた。
目は笑ってない。

「携帯かして」
「……!」

葵の言葉に、船川はフルフル頭を振った。
こげ茶色の髪が左右に揺らめく。

「はやく」

葵は静かに言い放った。
船川は怯えたように肩をすくめ、水色の携帯を差し出した。
折れるのはやいな……。
まあ仕方ないか。結局誰でも無理よ。

「美織ちゃんも」

今度は私に携帯を要求する。

「ん」

私は平然と手渡した。

葵は私の携帯のデータフォルダを開く。
一番最初に出てくるのは、船川の半裸写真だ。
そしてそれを、赤外線で船川の携帯へと送った。
次に船川のアドレス帳の欄を開く。
葵はたくさんの名前の中にある、一人の名前のところで指を止めた。

……功刀亮介?
隣のクラスの人だ。確か……

「功刀君って、陽奈子ちゃんの幼馴染だよね?」

葵の問いに、船川は返事をしない。
床に視線を向け黙っている。

葵は気にせず言葉をつづった。

「彼にイタズラしちゃおっじゃな〜」

そう言って柔らかい笑みを浮かべると、アドレス欄から新規メール作成ボタンをおした。