大人オリジナル小説
- Re: ごめんね、なんて(仮題名) ( No.2 )
- 日時: 2013/01/27 13:08
- 名前: 兎咲
No.001」
「おはよう」
「おはよー」
ある春の朝。
学校へと通う生徒たちは“明るい”笑顔を浮かべ、友達と仲良く歩いて登校している。
顔を合わせれば「おはよう」といい、また笑顔になる。
笑顔咲く学園、「花薄学園」。
中学校、高等学校、そして大学までエスカレーター式の学園である。
私は中学生だ。
ただし、普通ではないけれど……
「おっはよーう、望愛ちゃん?」
「まぁまぁ、今日もそんな“可愛い”顔しちゃってぇー」
妙に高くキンキンした声を発するこの二人は私の友達などでは決してない。
一人目に声を発したのは、神崎明菜。(カンザキ アカナ)
黒くて胸くらいまで伸ばした髪は、後ろでポニーテール。
瞳の色も黒で、目は少し釣り目。
それでも別に不細工なわけではなくどちらかというと可愛いの分類には入るのではないだろうか。
二人目に声を発したのは立実真衣。(タツミ マイ)
こちらは誰が見ても公認の美人である。
瞳の色は薄い茶色で、目は丸く大きい。
髪は栗毛色で、巻いているのか地毛なのかは知らないがクルリとカールした髪。
馬鹿な男子どもはこいつの笑顔には一発でやられる。
私は騙されないがな。……この笑顔の“裏”に悪があることに。
「返事くらいしたらどうなの」
さっきの笑顔をどこへやったのか真顔で問いかけてくる真衣。
この人の真顔は闇にしか見えない。私だけかもしれないけれど。
「……なんて答えたらいいんでしょう」
沈んだ声で私は言う。
こいつらの前では敬語が当たり前。
「そんなんもわかんないわけ?ほんと馬鹿よね。
あ、そうそう。今日掃除当番変わってよね、よろしく」
「私からもお願いするわ。明菜、今日はあたしと買い物行くから」
「そうですか」
簡単に返事をすると、踵を返して教室へ向かう。
ただしそうしたところで状況は一つも変わらないどころか悪化するのだが。
教室へ着くと、扉をがらりとあける。
ギュッと目をつむって、中へと入った。目をつむる理由?
ガシャンッ
そんな音とともに冷たい水が私に降りかかる。
そう、よくあるいたずらだ。中に入る途中糸か何かを引いてその下にいる人に仕掛けてあった水をかぶせる……。
これは毎日のこと。だけどよける方法はないので多少ましになるよう工夫しているわけだ。
ポタポタと雫が制服から滴る音が教室に響く。
そのしん……とした空気は一瞬のことで、次の瞬間には笑い声で教室が埋まる。
その中にはもちろんさっきの二人もいるわけで。
冷たい水、冷たい視線、冷たい笑い……。
そして、冷たく凍った心……----
注目の視線を浴びながら自席へ着く。
濡れた制服を乾かしたいところだが、そんな便利な機械などないし方法もない。
毎日とりあえず自然に乾くのを待つのだ。
当然定番の机の落書きはしてあって、もう気にしないようにはしている。
視界に入ってしまうのはもう仕方がないのだが、でも鋭い刃を持つ「言葉」達。
知らぬ間に私の心を斬りつけていく……
クスクス……そんな笑い声を身にまとい、教科書をカバンから出す。
その教科書ももう切れていたり、濡れていたり、破れていたり……ペンで黒く塗りつぶされてあったり。
つまりボロボロなわけだが、新しいものを買ってくれるような“優しい親”などは存在しないし。
こんな生活を強いられる私は歯を食いしばってでも生きている。
生きたくなんて、ない。
だけど……私にはただ一つ、守らなければならない人がいるから。
「チャイムなったぞ、座れー」
「委員長、号令頼む」
「起立、礼----」
その人のためなら、どんなにつらいことでも私は耐えよう。
ねぇ、神様?
私は、あなたに見捨てられた“ゴミ”だとしても、この青い地球に生き続けますよ……
----------------這ってでも、ね。