大人オリジナル小説

Re: 校内格差、【更新中】 ( No.23 )
日時: 2013/03/30 13:10
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg

「ったく! めんどくせえなあ」
 有明は愚痴をこぼしながら、私の斜め前でだるそうにホッチキスを動かす。

「元はというと、誰かさんがじゃんけんに負けたのが原因であって、」
 隣で冷静に突っ込みを入れる瀬名。
 誰かさん、とは有明のことだ。そーだそーだ、と私は心の中で応戦する。

「はいはい、すいませんでしたー」
 全くそう思っているようには感じられないけど。
「まあ別にいいじゃんか! 楽しいし」

 目の前にいる男子の会話が耳に入ってくる。一方の私はというと、礼奈とメグが好きだという、マイナーな歌手についての話についていくのに必死だった。

 私の班は放課後の教室で、一ヶ月後に迫った文化祭の、クラス全員分のしおりのホッチキス留めをしていた。
 昨日の終わりのホームルームでそれぞれの班の代表がじゃんけんをして、その結果うちの班が担当することに決まった。
 最初は、六人で仕事を分担するわけだし、すぐに終わるだろうと高を括っていたのだが、しおりの分量は意外と多かった。紙を一枚一枚半分に折って、重ねて、ホッチキスで留める、という作業は一冊作るのにも結構時間がかかる。私は今、二人の会話についていきつつ、やっと三冊目が完成したところだ。

「そういえば、秋風って何部?」
 礼奈が秋風に話し掛ける。行動を共にするようになってから半年ほど経つけれど、彼女の中に男女間で生じる隔たり、などというものは全くないようだった。

「剣道部とー、それから放課後居残り部!」
 秋風が屈託のない笑顔で、明るく答える。
「あ、放課後居残り部っていうのはー、放課後に集まって好きなだけ騒ぐ、っていう完全非公式の部! ちなみに、基本的に誰でもウェルカムだから!」
 さらに秋風は続けた。居残りと聞いて、先生とマンツーマンで特別補習が行われている所を連想していた私は、少し安堵する。

 皆、これまで同性同士で話していたのとは打って変わって、次第に男女関係無く話し始めた。あれほど有明を嫌っていたメグでさえ、今は有明と普通に笑顔で話している。
 どうしようか。私はしばらくしおり作りに集中しているように装っていた。が、周りの和気藹藹とした空気を察して、会話に加わることにする。

「てか、今考えると小学校の時って楽だったよねー」
 礼奈がしみじみと言うので、私はすぐに「だよねー」と話を合わせる。

「業間休みもあったし」
 と、秋風。そういえばあったなあ。二時間目と三時間目の間。個人的にあまり良い思い出はないけど。
「テスト勉強なんて、しなくても良い点取れてたのに」
 と、メグ。うんうん、と私は相槌を打つ。


「そういえば玉城ってさ、」
 私の向かいの席で、それまで黙々と作業をしていた瀬名が、不意に顔を上げる。
 私は話し掛けられたことの意外さに、少し驚いた。瀬名って、あまり女子と話すイメージがないから。
 偶然なのか、周囲の会話が途切れた。嫌な予感が、した。


「小学校の時とキャラ変わったよな」
 瀬名の声変わりした、低い声が教室に響いた。いや、私の頭の中で響いただけかもしれないけれど。
 背中に寒気が走った代わりに、耳が熱くなるのが分かる。今日は髪の毛を下ろしておいてよかった。
 私は何とか、周りに不自然に思われないように、笑って誤魔化した。
「そ、そう?」

「前は、もっと暗かったのに」
 …………って、おいおいおいおい、何を言っているのだ、この人は。心臓が飛び跳ねる。やめろやめろ、こんな所で。礼奈だって、メグだって、有明だって、いるのに。

「なんていうか本が友達、みたいな?」


 うっわあ。


「え、そうだったのー?」
 能天気な礼奈の声。パチン、とホッチキスで留める音が遠くで聞こえた。