大人オリジナル小説

Re: 校内格差、【更新中】 ( No.27 )
日時: 2013/04/02 09:08
名前: 村雨 ◆nRqo9c/.Kg

 今日の一時間目は美術だった。朝のホームルームが終わると、皆次々に美術教室に向かう。教室の扉に目を向けると、一人で教室を出て行く加藤の姿が目に入って、私は思わず目をそらしてしまった。

「紗綾、行こっ」
「うん」
 後ろの席の礼奈に声を掛けられ、私は急いで机の中から教科書を引っ張り出す。礼奈やメグたちと会話をしつつ、廊下に広がって歩く。私の左隣に礼奈とメグ。それから後ろに万里子と千種。万里子も千種も今年初めて同じクラスになった子で、今はよく一緒に行動したりする友人。二人とも明るくて面白い子だ。それから────あれ、いない。
「凌香は?」

「あれー」
「本当だ」
 振り返ってみると、ちょうど急いで教室から出てくる凌香の姿が。「あ、来た」
 置いて行っちゃうよー早くー、と私は笑顔で声を掛ける。

飯田凌香(いいだ しのか)。大人しくておっとりした性格で、明るくよく喋る子が多い私のグループでは、一際それが目立つ。皆で喋っていても自分から積極的に話を展開することは少なく、大抵は聞き役に回っている。そんな子。

「今週の土曜さー、皆でカラオケ行こうよ!」
 特別棟へと続く渡り廊下に出た所で、思いついたように礼奈が提案した。

「うんっ、行く行くー」
 私は真っ先に賛同し、メグや万里子や千種もわっと盛り上がる。凌香はいつもの調子で、にこにこしている。……よし、皆いつも通りだ。


 美術の時間、今日は前の時間に書いた下書きに沿って水性絵の具で色を塗る。多くの人が隣近所の人と雑談をしつつ作業を進める一方で、私は真面目に、誰とも喋らずに作業をしていく。私の席の周りは男子ばかりで、特に誰と話すこともない。

 ふと廊下側の席を見ると、礼奈やメグたちが楽しそうに雑談しているのが目に入った。
 三つほど前の席では、有明が作業を完全放棄して友人たちと談笑している。昨日瀬名が言ったことは、今の彼の頭の中に果たして残っているのだろうか。──多分、もう忘れているだろう。というか、忘れていてほしい。忘れろ忘れろ、と無駄は承知で有明に念力を送る。同様に、後ろの方の席で雑談、というよりは騒いでいる秋風にも念力を送った。

 それが終わると、私は気を取り直して作業を再開する。自分の絵心のなさには正直諦めがついている。が、それでも絵の具を微妙な加減で混合して、それで真っ白だった画用紙に少しずつ色をつけていく、という作業は楽しいものだった。
 一旦筆を置いたとき、ふと思った。私は一人の時間も案外好きなのかもしれない。