大人オリジナル小説
- 雪乃の過去 ( No.84 )
- 日時: 2013/06/07 22:06
- 名前: 哀歌 ◆dcuKuYSfmk
番外編 伝えきれなかった思い
私ーー佐々木雪乃は、最近、ストーカーに悩まされている。
気持ち悪い。
テガミが送られてきたり、帰り道、後ろから付いてこられたり……
気持ち悪いよ。
家族には相談できない。絶対に。
特に、双子の姉の綾乃には。
綾乃は、私のことを大切に思ってる。
だから、相談できない。
綾乃を人殺しにはしたくないーー
犯人はもう、分かってるんだ。
担任の、宮本篤司。
気持ち悪い40代の親父。
もう、学校には行きたくない。
綾乃、助けてよーー
「雪乃、最近ご飯も食べてないじゃん!!
ねぇ、雪乃。出てきてよ!!」
ドンドン、と、綾乃が自室のドアをノックする。
「……綾乃……もう、嫌だよ……」
1ヶ月の間に、テガミは山のようになった。
捨てても捨てても戻ってくる。怖いよ。
「……綾乃……死にたいよぉ……」
ねぇ、綾乃。
貴女は今、どんな顔をしていますか?
「雪乃!! 俺、待ってるから」
清羅お兄ちゃんの声が聞こえる。
大好きなお兄ちゃん。
一度で良いから、「大好き」って伝えたかったな。
もう、1年か。
きっと私は、永くない。
もう、私の身体は言うことを聞いてくれないよ。
もう一度、綾乃に会いたいな。
「雪乃!!」
幻覚かな? 幻聴かな?
綾乃の姿が見えるよ。綾乃の声が聞こえるよ。
「……あやの?」
「雪乃!! 雪乃!!」
綾乃は、必死に私を抱きしめる。
「……あやの……ご……め……わたし……もう……」
声が出ないよ。
「もう、何も言わなくても良いから!!」
「あやの……なかな……で……」
綾乃の涙が、私の頬に落ちる。
「あやの……だいすき……」
私は、ゆっくりと目を閉じた。
今までの出来事が、走馬燈のようによみがえる。
綾乃と遊んだ日。
奏と出会った日。
昴お姉ちゃんが、私達を守ってくれた日。
清羅お兄ちゃんに恋をした日。
綾乃。
もう、泣かないで。
私はいつも、綾乃の傍に居るよ。
ねぇ、泣かないでってば。
笑ってよ。
綾乃は、笑顔の方が似合うんだから。
綾乃、大好きだよ。
綾乃、愛してるよ。
綾乃、泣かないで。
綾乃、笑ってよ。
私の記憶には、綾乃の笑顔しか無いんだよ。
綾乃がいつも、笑ってたから。
私も笑顔で居られたんだよ。
伝えきれなかった思いは、まだまだ沢山あるけれど。
今、伝えたいのはこれだけ。
綾乃、ありがとう。