大人オリジナル小説
- Re: 白黒ストーリー ( No.1 )
- 日時: 2013/06/08 14:47
- 名前: suzuka ◆3p2qsnXqkQ
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太陽の光が見えない暗く重い空。鳥が一羽でそこへと消えていく。その姿はとても小さく、しかし羽を広げるととても大きかった。自ら暗闇へと向かう鳥に“不安”というものは存在しないのだろうか。――――私には無理なんだ。
「木須野さんだ」
「一人で登校とか寂しすぎ、かわいそー」
哀れみの声は勿論聞こえている。目線も感じている。すべてが私に突き刺さる。回避するすべなどない。
ぽつ。雨が降り始めた。灰色の雲から、大粒の冷たい雫が私へと襲いかかる。傘などは持っておらず、私は無防備なまま歩く。走る気もしない、何もしたくない、学校へ行きたくない。その思いが私の足を止める。
女子生徒が二人、視界に入った。右側で歩く黒髪をポニーテールにしている女子の後ろ姿は見覚えがあった。朋香だ。
「やばっ! 降り出した」
「私傘持ってるから、一緒に入ろう。朋香」
「え、本当? ありがとう」
遠くで聞こえる二人の会話。朋香は“友達”の傘に入り、学校へと笑顔で向かう。その姿は演技だと分かっていても、とても楽しそうで。うらやましかったのかもしれない。――――寒い。
下駄箱の中の私の上履きには落書きがいくつか。
もう察しているだろうが、私・木須野美奈はいじめにあっている。主犯は元友達で、クラスのリーダー格の赤石朋香。原因は受験勉強のストレス発散。朋香の志望校はかなりレベルの高い私立高校で、ストレスもたまっていたのだろう。地味な嫌がらせを中心とするいじめが少し前から始まった。
私は落書きを気に留めることなくそのまま上履きを履き、自分の教室へと向かった。雨の音が少しずつ大きくなっていく。窓の外に目をやると、中庭には大きな水たまりがもうすでにできていた。
私はぬれてしまった少し茶色がかった髪の毛をハンカチで軽く拭いてから、教室のドアを静かに開けた。にぎやかで、私が入ってきた事にはまったく気がつかないクラスメイト。
私の席には葉山という男子が座っていた。しかしそれはいじめではなく、彼の友人の席が私の席のとなりなので、私がいない間だけ友人としゃべるために座っていたのだろう。第一、いじめの事をクラスメイト全員が知っているわけではない。ましてや男子だと、私と朋香がもう友達ではなくなった、という事実さえも気がついてないのかもしれない。私が机の前で数秒立ち止まると、彼はようやく私の存在に気がついたのか「悪い」と一言だけお詫びの言葉を口にしてから私に椅子を差し出した。私は何も返事をせずに椅子に座り、読書を始めた。無愛想だと思われただろう。きっと後で私の愚痴を言うのだろう。だが言葉がのどで止まってしまいお礼の一言も言えなかったのだ。つまらない意地や恥ずかしさから、私はただうつむいて読書をしているふりへと逃げたのだ。――――ごめんなさい。
校内にチャイムがなり響くと、最近白髪が目立ちだした二十代後半、男の担任が出席簿を持って教室へ入ってきた。朝の学活が始まる。