大人オリジナル小説

Re: The vengeful plan to her ( No.5 )
日時: 2013/07/15 02:24
名前: suzuka ◆3p2qsnXqkQ

突き刺すような大雨がグラウンドに大きな水たまりをつくっていた。大きな灰色の雲は空一面に広がり、太陽をどこかへ隠してしまっている。薄暗い教室に、朝と同じように蛍光灯がついたり消えたり。気分が重くなるような空間だった。
学校内にはもうほとんど生徒はいない。数分前に『警報が解除されたので生徒は至急下校してください』という放送が流れたからだ。警報が出たら学校で待機、解除されたら至急下校というのが主な学校の方針だが、今でもかなりの大雨な訳で。生徒たちはぬれながらも帰っていった。
私とユウカとレナも、急いで帰る支度をしているところだった。ついさっきまで私の机の落書きを消していたのだ。一人で消そうとすると、ユウカが無言で手伝い、レナも私の頭を軽くたたいてから手伝ってくれた。嬉しさで涙がこぼれそうだった。耳があつくなる感じがした。それと同時に、巻き込んではいけない。という考えもよぎった。

「あっ! 傘持ってない……」

ユウカがそうつぶやくと、レナは「私も」と言って窓の外を見た。雨は酷くなる一方で、止んでくれそうにもない。
私は鞄の中に折り畳み傘がはいっている事に気がつくと、息を飲み込んだ。折り畳み傘だと、ギリギリ二人はいれるかどうかだ。どうせ一人ぬれてしまう。

それなら、今話を切り出すべきだ。きっと、神様が今言え、と言っているんだ、と勝手な思い込みで、私は大切な友達を傷つけた。


 たとえそれがその人のためでも、罪は罪でしかない。


「ユウカ……なんで私の机の落書きを消すの……手伝ったの?」

ユウカは少しだけ驚いた顔をした。その後、すごく優しい笑顔で私に言った。

「だって、ルイが大好きだから……友達だから!」

その笑顔が本物だという事も、言葉に嘘が一つも含まれていないという事も知っていた。透き通ったきれいな瞳で、真っすぐに私を見るユウカも、ユウカらしいな、というふうに笑うレナも。私の事を、心から友達だと思ってくれている事も知っていた。だから。

「友達……? ふざけないでよ、偽善者が。それならなんで、今日……私がいじめられている時に助けてくれなかったの? 本当は私を見下してるんじゃないの? 友達だなんて、よく言うね」

ユウカの顔が真っ青になるのが見えた。レナが大きく目を見開いて、今にも泣きそうになっているのがわかった。自分の顔が悲しみで歪みそうなのもわかった。
私は出来る限り無表情を装い、冷たい目で二人を見た。乾いた声で、二人を傷つけた。

「友達のふりはもうやらなくていいよ。私ももう止めるから。……最初から二人とも嫌いだったの。ユウカは“いい人”を演じきって。レナはかっこいい自分を演出して。見てて目障りだった」

私がそこまで言うと、ユウカは力いっぱい私を抱きしめた。予想外の行動で、涙があふれそうになった。あたたかくて、優しい。
泣きながら震える声でユウカは言った。その声は途切れ途切れで、聞き取りにくくて。でも、その言葉たちは私の心へと突き刺さった。

「レナはね……かっこいいんだよ。演技とかじゃなくて、本当なの。…………ルイだって、かっこよくて……優しいんだよ。こんな卑怯な事されても屈しないの。……だから嫌いだったなんて嘘なの。きっと、なにか理由があるんでしょ? ……ルイは優しいから……理由があって、嫌いだなんて嘘ついたんでしょ……?」

 ――――ユウカには嘘なんてつけないな

「ルイ、ごめんね。いじめを止めれなくて……でも、ユウカは悪くないんだよ! 私がユウカを止めたの。……でも、明日は絶対に私がいじめなんて止めさせてみせるから。ルイも、ユウカも……私が守るから!」

 ――――レナは本当にいつも私やユウカを守ってくれる。

「嘘な訳ないでしょう? 私は二人が嫌いなの。……守るとか、できもしない事を……。言うだけなら簡単ね」

私はユウカを突き放した。ユウカが悲しそうな顔で私を見る。私は重く淀んだ空気を吐き出した。

「さようなら」

ユウカは涙を流して教室を出て行ってしまった。ユウカは本当に悲しそうな顔をしていて、私は結局泣いてしまった。それをみたレナは今にも泣きそうな顔で私に問いかけた。

「どうして……あんな事」

「巻き込みたくないの……大切な友達だから」

「でも……」

「レナ、あなたは私よりもユウカを大切と思っているでしょう? ……責めているわけじゃないよ。それでいいと思う。だって、私も一緒だもん」

レナは驚いたような顔をしてから、小さくうなずいた。

「私がは強がりで、なかなか友達が出来なかったの。……でも、ユウカがそんな私に声をかけてくれた……。私を救ってくれた。大切な人」

私はその言葉を聞いてから、胸に何かが刺さったような痛みを押さえつけるようにブラウスの胸の辺りを強くつかんだ。
涙を必死にこらえ、再びレナの方向へ視線を送ると、カバンの中から折り畳み傘を出した。

「まだ間に合うから。ユウカを追いかけて……。おねがい、きっと傷ついてるから…………レナが必要だから」

私は折り畳み傘をレナへと差し出すと、窓の外を見た。さっきよりも激しい横殴りの雨が窓をたたく。ガタガタと音をたてる窓に手をそえるととても冷たかった。

「ルイ、私は納得してないよ。……きっと他に方法があるはずだから。ルイの回答は誤答でしかない……結局、ユウカを傷つけたんだから」

悲しそうなレナの声に、私は目をそらした。