大人オリジナル小説
- Re: 【一応BL】黒百合とアジサイ ( No.1 )
- 日時: 2022/04/07 23:06
- 名前: R
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
#1
「あぅっ……んっ〜っ〜!!」
目元に手を当ててあからさまな嬌声を出す。
「ふふっ…気持ちい?」
客が腰を振りながら俺に尋ねる。
(……全然気持ちよくねーよ。)
そう心の中で貶しながら
「う…んっ!」
と叫ぶ。
この仕事は、なんて楽なのだろうか。
指名を受けたら着替えて指定のホテルに行って。
足開いて声を上げていればたいそうな金がもらえるのだ。
それだけで俺は……存在意義をもらえる。
ほら、今日だって。
こうやって俺がぼーっとこんなこと思ってる間に客は絶頂して、おれは絶頂したふりして。
これで仕事完了だ。
「めっちゃ…きもちよかったぁ…」
ベットの上で膝立ちをしてシャツを着ている客に向かって、ベタ座りをしながら上目づかいで言う。
客は「俺もだよ。ありがとうね。」
と言いながら俺の頬にキスを落とした。
「今日はありがとう。」
ホテルの前で俺に金を渡した客は微笑みながら言う。
「いえいえ!こちらこそありがとう。西藤さんすごく優しいし……ぼく、はまっちゃいそう」
「そう?じゃあ、またお世話になっちゃおうかな〜?r」
「ほんとうにっ?嬉しい!」
「うん、絶対。じゃあ、またね」
会話を少しした後、手を振りながら俺から離れていく客に向かってはしゃいだように手を振る。
客が曲がり道でタクシーを拾って居なくなるのを見た後、
「はぁ」
とため息をついて貰った金をポケットに突っ込む。
西藤 直樹。さっきの客の名前だ。
初めての客。
なかなか金を落としてくれそうなおっさんだ。
「あいつはにがしたくね〜な」
ボソッと呟きながら歩いていると誰かと真正面から思いっきりぶつかった。
「っ…いたっ…」
ぶつかった反動で尻餅をつく。
「あっ…!?すいませんっ!大丈夫ですか?」
相手は俺が尻餅をついた音でぶつかったことにやっと気づいたらしく、少しかがんで手を出してきた。
(ったく…どんだけ鈍感なんだよ)
心中で文句を垂れながら
「大丈夫です!怪我もしてないので」
そう言い相手の手を取って立ち上がる。
相手は「よかった……」と胸をなでおろすように言う。
「あ…れ?春水さん?」
相手が俺の名字を読んだ。
「えっ……?」
驚いて顔を上げる。
「やっぱり!春水さんだ〜」
どうやらぶつかった相手は学校の数学教師だったみたいだ。
「あれっ!?木佐先生!?奇遇ですね〜」
首をこくっと動かしながらはにかみ笑顔をする。
「春水さんはバイト終わり……ですか?」
「はい。そうです!清掃業やってて、今日はこのホテルのフロント清掃だったんですよ!」
さっきまで客と体を重ねていたホテルを指差す。
「あぁ…あそこの!お疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね。」
「ありがとうございます!木佐先生もお体に気をつけて!」
話を終わりの雰囲気に運ぶために少し足を進める。
相手もそれに気づいたようで「それでは、明日」そう言って通り過ぎていった。
早足で木佐から距離を取った後近くのビルの陰でほっと胸をなでおろす。
いくら学校でいい顔してるからって、バイト許可証貰ってるからって、体を売るような仕事が許されないのはわかっている。
きっとばれたら……。
「退学……だな…」
小さく呟く。
退学はいやだ。
ここまでしてきた努力が水の泡だ…。
そもそも、生まれた家があんなんじゃなかったら…こんなことしなくていいのに。
〈翌日〉
「春水さん。少しお時間いただけますか?」
数学の授業の後、いつも通りクラスメイトたちと話していると木佐が声をかけてきた。
心臓がドキンとなる。
ばれ…た…?
その可能性が高い。
だとしたら…
『退学…』
頭の中にこの二文字が大きく浮かぶ。
それは…まずい。
逃げる…か?いやでも…。
「春水さん?」
トントンと肩を叩かれる。
「あっ…はい!すいません。ちょっとぼーっとしてました!!」
「よかった元気そうで。体調悪いのかと思いました。何も、怒るわけじゃないですよ。ちょっとお願いしたいことがあるので、準備室まで来ていただけますか?私は先に行ってますので。」
「わかりました。すぐ向かいます。」
「ありがとうございます。では。」
木佐は俺と話し終えると自分のカバンを持ち、教室から出ていった。
「ってことでちょっと席外すわ!お前らいたずらすんなよ?」
椅子から立ち上がり明るい声でさっきまで話をしていたクラスメイトに注意喚起をする。
「お〜?それはしろってことかな?」
「任せとけって!」
「はぁ……wwwwまぁ、期待してるわ!」
そう言い残し、教室を後にした。
廊下を歩き、準備室の前まで来た途端、猛烈な息苦しさを感じた。
「は…ぁ…」
乱れる呼吸を無理やり整え扉をノックする。
するとガチャリと音がして扉が開いた。
「あっ、春水さんですか。では、中に。」
木佐は俺が中に入ったのを確認したや否や扉の鍵を閉めた。
「そちらの椅子におかけになってください。」
扉を閉めた後、振り返った木佐と目が合う。
「……!?」
なんだろう、言葉に表せない…。
不快な感じがする。
「あ゛ぐっ……」
その不快感の後にさっきみたいな息苦しさと吐き気が同時にきた。
口を手で押さえてその場に座り込む。
(なんだ…これ……。俺そんなに…退学が…。現実が……)
考えれば考えるほど息苦しさ、吐き気が大きくなる。
それに耐えられなくなり、それを……恐怖を吐き出すように床に向かって咳き込んだ。
木佐は咳き込む俺に近づいて、かがんだ後に俺の背中をさすりながら。
「大丈夫、大丈夫…」
と子供をあやすような言葉を発した。
少し時間が経つにつれ会話ができるまでに落ち着いた。
木佐は落ち着いた俺をいつに座らせて、自分も向かいに座った後に
「さて……」
と本題を切り出した。
「普段真面目で、落ち着いているあなたがあそこまでになるほどの原因……。自分でわかってるでしょう。なんでかな?」
木佐は真っ直ぐ俺を見つめる。
「………………」
制服の裾をギュッと掴みながら目をそらす。
「黙るんですか?」
「………………」
「そんなに自分の口から言いたくない…と?」
「………………」
「……燻百合(くゆり)くん。」
「俺はっ…。自分の体を売りました。」
俺が事実をいうと、「うん。そうだね。」
と首を縦に振った。
「じゃあ、次の質問。なんでそんなことをしたの。」
なんで……か。
存在意義をもらえるからなんて言えない。
「生活費を…稼ぐため。」
「えっ……生活費…?」
「…俺は…俺は…………。
親に…………嫌われてるから。」
掠れた声で言葉を絞り出す。
木佐な明らかに驚いた表情をした。
「俺は……親にとって…。呪いなんですよ。
俺が出来てから、いいことがないって。」
「……そんな…こ…t」
「俺の親は3日に1度家にかえってくるかどうか。
生活費は…ある程度は払ってくれるけど毎月3万家に入れろって…。
それから、自分の洋服とか、塾代とか…。
でもそんないっぱい稼げないから。
身体を売るしかない」
木佐は完全に、言葉を失った顔をしていた。
数分後、何かをずっと考えていた木佐がようやく口を開いた。
「わかりました。あなたのこと。
まず、安心してください。このことは秘密にしておきますね。私の温情です。」
秘密。温情。
その言葉で安心する。
「そのかわり、ここからは…」
木佐は自分が首にかけている名札を外すと机の上に置いた。
そして、俺の方まで来ると。
「ここからは。生徒と先生の関係をなくして会話をしましょう。」
目で俺をしっかり捉え低い声で言った。
俺が何も言わず木佐とを見つめていると、木佐は…………
ただ一言俺に言った。
「どこまでが……本当かな?」