大人オリジナル小説
- Re: 戯構築世界ノ終末戦線 ( No.3 )
- 日時: 2023/02/25 13:53
- 名前: htk ◆jXi8pdgzNQ
1章〜〜第1幕、1話ーー副題(未定)
時を遡ること、1日と少し前ーー。
突如現れた所属不明の暴徒に、マルトワ国が誇る優美な城が襲われていた。
後背にしたマルタ山脈越しの日の出が後光を差すようーーと称される央陸大地有数の美城だが、まだその時間帯にはなっていない。
深夜だ。
いったい何処の国の意図が裏で働いているのかいないのかーー今は正直分からない。
真夜中の侵攻は密かに進められたらしく、敵の人数も出処も不明ーー。
ーー平時だからといって警備を緩めたつもりは無かっただろうが、城下で火の手が上がったのを機に気付けば攻め込まれていた。
おそらく、それが陽動だったのだろう。
事態が兵達に伝わる前に攻め上ってきた敵勢は、既に城内へ押し入っていたらしい。
城下の消化へ向かった衛兵達の手薄もあって、奥の扉に危機が迫っていた。
陛下の後宮だ。
王城の中庭に湧き出てきたのは1人、2人、3人4人ーー数えるのも馬鹿らしくなってくる人数だった。
夜番の相方が、若干の震えを帯びながら聞いてくる。
「おい、元副団長さん
どうするよ?」
目配せで指示を仰いできたのは、以前からの習慣だろう。
彼とはよく知った仲で、今ーーこういう状況下で相方が彼だったのが、せめてもの救いだった。
元副団長さんーーと呼ばれた俺は顎で後宮を示し、扉の前で仁王立ちする。
よく知らない相手だと意思の疎通で苦労するが、彼にはそれだけで十分だったらしい。
相方が扉を開き、半目で振り返る。
「そんなに時間は取らせねえつもりだから、適当なとこで切り上げろよ?
、、じゃな」
若干の悲壮感を帯びながら言ってきた。
特に親しいという程では無いが、幾度か戦を共にした事もあるし、戦友ーーといった感がある。
後宮の扉を静かに開いた相方を背で見送って、向かってくる賊を睥睨した。
10、20、30ーーと人数を数えたが、まだまだ居る。
どうやら、俺と同じ人種ーーヒューマンだけでは無い様子だ。
矮小な小人に獣面の獣人ーー長い耳を持つ者も居れば、頭に角を生やす者も居る。
一見すると、何処の国の所属かも分からないぐらいには雑多な人種の集まりだった。
賊徒ーーで、十分だろう。
練兵に使われる事もある中庭にはその出処不明の賊達がーー少なめに見積もっても100人は集まっているように思えた。
その中の先頭の男が、下卑た笑みで話し掛けてくる。
「よおよお!オメエが此処のボスか?へっ!
なんか拍子抜けだなあ」
「へへ、そりゃサービス開始からこんな人数集まるとは運営もまさか思っちゃいないでしょうぜ!」
ニタニタと追従する一人も先の男と同様に品が無い。
賊がーー。
ーーとでも言いたいところだったが、唖の身とあっては大した返答も出来ないのが忸怩たる思いだ。
もどかしい事この上無いが、王宮を荒らした罪は刃の元に償って貰うしか無いだろう。
そう思い、剣を構えた時だ。
向こうから、女性の声が響いてくる。
「副団長様!
賊です、敵襲です!
早く迎撃体勢を、、
、、きゃッ!?」
「ウルセエ!雌ブタが!?
テメエは黙って便女でもやってるんだな!グッヘッヘッヘ」
大男が使用人の腕を引っ掴み、気持ち悪い笑みでこれ見よがしに彼女を押し出した。
既に衣服が乱れ、半裸だ。
副団長様ーーと、唖の身になって以降もそう呼んでくれる人達は少なからず居る。
気丈にも表情を変えずに堪える彼女も、そうした一人だろう。
哀れにも賊の汚い手で嬲られたのを察し、血の巡りが速くなるのを感じた。
許してはおけないーー。
ーーだが、今の段階ではあの大男の元まで、何人も斬り伏せなければ辿り着けそうにない。
引っ立てられた使用人の傍らに、あまり見覚えのない少女も居るがーー。
確か新規採用者を募集していたから、城の小間使いだろうかーー?
人質ーーというつもりがあるのかはよく分からなかったが、安易に今この場を離れて後宮の陛下を危険に晒すわけにもいかない。
俺の苦渋を察してか、使用人の彼女が叫ぶ。
「どうぞお見捨て下さい、副団長様!
私がどうなっても、どうか陛下の御身だけは、、」
「え?!え?これイベントなんですか!?
どうしよう、、
資格も小間使いだし、私戦えないんですけど、、」
傍らの少女は混乱を来しているらしく、落ち着かない様子だった。
使用人の彼女の覚悟をーー不承々々だが、受け容れる他無い。
一瞬だけ目を合わせた俺は悲しげに視線を伏せ、彼女が小さく頷いたのを確認した。
ならば、俺が此処で出来る事は一つーー時間稼ぎだ。
相方が陛下及び、王室の方々を城外へ逃すのが先かーー。
それとも、城下の小火騒ぎを収めた兵達が戻ってくるのが先かーー。
ーーそれまでの間、後ろの扉を抜かれなければ敵勢の夜襲は失敗に終わるだろう。
俺は剣を構え、先頭の男を見る。
「へっ、そう来なくっちゃなあ!
行くぜ!初のボス戦は俺らのもんだ!」
「おう!
他のプレイヤーの度肝抜いてやんぜ!
目にモノ見せてやらぁ!」
その声を皮切りに、賊達が押し寄せてきた。
圧倒的に不利な状況だ。
だが、彼らの動きはどうにも稚拙でーーこの夜襲を仕掛けてきた割には、それ程統率が執れているようには見えない。
格好は皆平民が着る衣類に毛が生えた程度だし、おそらく城下に溶け込ませる為の偽装兵だろう。
あの中に手練れが居ないとも限らないが、やってやれない事は無い筈だ。
「……ウ゛ン゛」
呼吸を落とし、腰溜めに剣を構えた。
〈武技〉からの派生技、【追従身】ーー。
ーー俺の動作に追従する、もう一つの身体というべきものを感じ取る。
賊共の目には、今ーーこちらの姿が二重に映った事だろう。
彼らの一人が驚き、口を開きかけた次の瞬間ーー。
ーー足を大きく踏み込み、手にした両手剣を薙ぎ払う。
彼らの足元を掬う一撃は更に、二重に重なる斬撃を翻る背で響かせる。
「うへグゥ?!」
「ぅあガ?!
何が起き、、」
言いかけた男の顔面を裏拳気味に掴み、逆方向へと流した。
俺の側面を取ろうとした足音はそこで止まり、味方との思わぬ衝突でたたらを踏んだ。
そこを見逃す程、甘くはない。
後方から突き入れてくる剣尖を躱すべく身を屈め、屈んだ勢いのままに一回転ーー。
ーー旋回した両手剣の大振りな刃が、猛威を振るう。
すっ転んだ賊の方面を無視し、立ち上がりざまに剣を振り上げた。
ザシューーとでも空気を裂きそうな一撃は、その一撃だけでは終わらない。
【追従身】によって遅れて放たれる斬撃が、賊の後続を続けて斬り上げる。
その逆方向では先にすっ転んだ数人に足を取られ、驚愕の表情を浮かべた。
もたついた彼らのその一人が口を開き、驚きを隠せずに言う。
「つ、強えぞ!?
やっぱいきなしボス戦とか無理なんじゃないすか!?」
「へっ!ちったあ頭使いやがれってんだよお!?
よし、、」
そう言うと先程は先頭に居た男が、後方から軽く手を挙げた。
こいつがおそらく、賊のリーダー格だろう。
彼は一旦他の賊共を退かせると、ニンマリと下卑た笑みを浮かべた。
次話=>>4