大人オリジナル小説
- 水泳の時間 ( No.1 )
- 日時: 2025/03/08 14:05
- 名前: 管理人
ストーリーを分かりやすくするため、多少の自己紹介を文中に混ぜて、進めさせていただきます。
私の名前は色山さくら、来年から中学1年生の女の子です!
・・・あれ?あ、ごめんなさい、今は小学6年生です!
私には、ちょっと年上の兄がいます。とは言っても、1か月しか差はないんですけども。
とある真夏の日・・・。
めちゃくちゃイケメン顔をした男の子が、プールに向かって飛び出した。
そのまま、慣れた動きで、まっすぐ水面を進んでいく。
「うわー、やっぱすげえなー!」
「さすがはゆうき、去年の大会では準優勝だもんなー」
座ってみていた男子が、次々に口をそろえて、ゆうきのことを話していた。
たしかに、ゆうきはすごい。
特に水泳は、この学校では一番うまいといってもいいくらいに、気持ちよさそうに泳いでいる。私は、それを見て羨ましく思った。
ゆうきがプールから上がるのを待ち、ゆうきに話しかけてみた。
「なんで、あんなにうまく泳げるのよ!」
急だったので、ゆうきもびっくりしていた。
「なんでって、小さい頃から練習してたからだよ」
「小さい頃からって・・・!私だって、小さい頃から練習してた!なのに、なんで、私はうまく泳げないの!」
つい大声を出してしまった。
みんなが居る前で、兄弟げんかなんて、みっともない。
「色山ー、だいじょぶかー?」
先生が心配して呼びかける。
「ほんと、ずるいんだから!」
私はすねた顔で、プールサイドの端に体育座りした。
(なんで、私だけ・・・)
涙が出てきた。
家族はみんな泳げるのに、泳げないのは家族で自分だけ。
それが恥ずかしくてたまらなかった。
その光景を見ていた二人の男子は、こそこそと話し始めた。
「なあ、あいつらって本当に兄弟か?」
「兄弟じゃなきゃ、あんな喧嘩できないでしょ」
「たしかに、周りの目を気にせずに喧嘩できるってのが、兄弟ってことなのかもな」
ゆうきは、二人の男子の話が聞こえたが、聞こえないふりをした。
(俺は・・・俺は・・・)
そしてゆうきは、自分の手をぐっと握りしめ、再び踏み台の上に行った。
この時期になると、去年の大会のことを思い出す。
(くっ・・・)
去年の大会では、惜しくも準優勝。
あともう少しで、県の大会に行けたというのに、惜しくも0.5点差で負けてしまった。
でも、だからこそ、今年こそは絶対に勝てる・・・いや、勝つんだ・・・!!
再びゆうきは、高くジャンプしてプールへと飛び込んだ。
なんだ・・・自分に足りないもの・・・0.5点差を埋められるもの・・・。
ゆうきは、水中に入りながらも考える。
それを見ていた二人の男子は、楽しく話し合っていた。
「あいつ、よく泳げるよなあ」
「ああ、もうこれで、10回目だぜ。これで疲れないってのがすごいよな」
もっと・・・もっと・・・去年と同じ結果にはしない・・・今度こそは絶対に・・・!!
「やっぱ、去年の大会のことで悩んでんのかな」
「そうだろうな。あの大会は、悔しい思い出でもあったけれど、ゆうきが優勝できるチャンスでもあったからな。そこを逃してしまった気持ちは、俺たちには分かんねえよ」
「そうだな」
はあっ・・・はあっ・・・どうした、俺、あと5mだぞ・・・。だめだ、足が痛んできた・・・。
「あれ・・・?だいじょぶかな?」
「まずいな。ちょっとスピードが遅くなってきている。これは、あの大会の時と同じだ・・・」
また、これか・・・。しかし、ここで諦める訳には・・・。
あともうちょっとだと思うと、すぐに足が痛くなってしまう。このせいで、去年の大会でも優勝を逃したというのに・・・。
「ぬぬぬぬぬ・・・ゆうきー!!がんばれー!!」
「・・・そうだゆうき!!そのまま行けー!!」
騒いだせいか、二人はものすごく汗をかいていた。
そこに、身長が少し高い山本しずくがやってきた。
「あんたたちは泳がないの?」
どうやら、彼女は泳いだばかりらしい。
「俺たちは、ゆうきの応援でいそがし・・・おい、まさと、見ろよこいつの胸!」
「えっ?おっ、これはこれは貴重ですな、ぐふふ・・・」
しずくの顔が一変する。
「お前ら、プールの中に沈めてやろうか?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「・・・ったく、どこ見て言ってんだか!」
怒りながら、しずくはその場を立ち去ってしまった。
それと同時に、ゆうきがプールから上がってきた。
ゆうきは、プールサイドに座っていた二人の男子に聞く。
「なあ、俺の泳ぎ、どうだった?」
「えっ・・・その・・・もう少しスピードがあればいいと思ったよ・・・」
しずくの胸に夢中で見てなかったとは、とても言えない・・・。
「だよなあ・・・俺も、なんか去年よりスピードが落ちてる気がするんだ・・・」
落ち込むゆうきに、まさとは励まそうとする。
「そ、そんなことないよ!だって、その・・・」
だめだ、いい言葉が出てこない。なんで、こういう時に限って・・・。
「ありがと、それじゃ」
「あ・・・」
ゆうきは、歩いて行ってしまった。
2人は呼び止めようと思ったが、呼び止めることはできなかった。
泳ぐことのできない、2人にとって、ゆうきに何と言ったところで無駄だろう。
ゆうきは、さくらの前に立った。
「なあ、俺、そんなに悪い事した?」
「ほっといて!」
「そろそろ、チャイムなるぞ」
私はばっと顔を上げる。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
悔しい・・・周りの子は泳げているのに、自分だけ泳げない。
私は、ゆうきの妹なのに、なんで泳げないんだろう。
「ほっといてってば!!」
つい、感情的になってしまう。私の悪い癖だ。
「おーい、色山ー、早く来ーい!」
さくらは、先生の呼びかけにも応じることはなかった。再び顔を伏せる。
「ああもう、色山ってどっちのことなんですか!!」
「どっちもだ、何でもいいから早く来てくれないか。着替えもあるから早く終わらせたいんだ」
先生も呆れてきている。
「なあ、いいから行くぞ!」
俺だって、早く着替えたいのに・・・。
「・・・ばーか!」
私はそう言って、急いで走った。
ゆうきも、私に着いてきた。
「それって、どういう意味だよ?」
(・・・何なんだよ、もう!!)
こうして、今年初めての水泳の授業は終わった。