では、始めようと思います。
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない世界。
でもね、あの日私は確かに汚されたの。
漫画の世界だけだと思ってた。
ドラマの世界だけだと思ってた。
けどそれは、浅はかな考えで、全くの世間知らずだったのかも知れない。
私は兄に襲われた。
・誰が望んだの?
ーやめてよー
ー何でこんなことするのー
ー私何も悪いことしてないじゃんー
ー助けてー
ー助けてよー
その時私は初めてこの世の絶望を味わった。
近親相姦。
ごく身近に転がっていて、あまりにも遠いものだと私は思ってたのに。
兄は泣いてる私にこう言った。
「喧嘩したって言っとけよ。」
ただ淡々と吐き出された兄の言葉に私は体を震わせた。
親に相談することができない。
ましてや、友達に相談なんてできるはずもない。
けど、一つだけ救いがあった。
私にとって唯一無二の存在。
大好きで、大好きで愛おしい彼氏。
幼いながら私は、彼が大好きだった。
その日から私には、裏と表の自分ができた。
表の自分は、明るく馬鹿で、能天気な女の子。
裏の自分は、気弱で怖がりで、何より人とかかわるのが苦手な女の子。
本当の自分は裏の自分。
自分の部屋にいるとき以外は、全部表の自分で偽っていた。
私は、笑いたかった。
何もなかった時のように。
だから私はひたすら彼に笑いを求めた。
「私を笑わせて」
何度も何度もそう繰り返した。
彼は嫌そうな顔ひとつせず毎回私を笑わせてくれた。
だから私は、彼と居る時一番の幸せを感じ、一番の安心を感じていた。
彼と居る時間が、彼と一緒に笑って入れる時間が何より私は大好きだった。
誰が望んだのでしょう。
近親相姦されることを。
神様でしょうか?それとも私を憎む人たちでしょうか?
一話 終演