大人オリジナル小説
- この先真っ暗
- 日時: 2012/03/05 00:16
- 名前: 米田 治
リハビリを終え、病院から出て三十分ほどが過ぎていた。腹が減っていたので途中で降りてコンビニに寄った。活気づく商店街はどうも苦手だ。自分は無愛想な店員と向き合うのが向いていると最近つくづく思う。百五円のおにぎりを二個手にし、レジに向かいながらそう思った。
店を出る。途中中学の時の学友に似ていた人間を見たが、知らないふりをした。べたべたされるとめんどうだ。昔の自分はこういう時、愛嬌を振りまいたものだが。
十五分ほどで家である安アパートについた。別にこれといってすることもないから敷いたままの布団にもぐりこむ。割と歩いたし、すぐ寝むれそうだ。
何の面白味もない一日だった。「子供のころの自分が今の自分を見たらどう思うだろうか。」天井に語りかけた。昔はもっとゴージャスな生活にあこがれたものだ。だれだってそうか。自分の人生がほんの些細なことで台無しになるなんて思ってもいない。忘れもしない去年の夏。
その日私は会社へ向かう途中だった。その日は朝だというのに気温は三十度近くあった。通勤ラッシュの中、面倒だったから交差点の信号を無視した。それがいけなかった。乗用車がブレーキの音を立てながら突っ込んできた。私は割と反射神経も運動神経もある方だったが、夏の暑さで意識がもうろうとしていたため、車をよけられなかった。車に跳ねられたとき強く頭を打ったようで、意識を失った。
その後意識が戻った私は驚いた。靴の左右はもちろん前後も分からなくなっていた。脳に損傷があると医者に言われた。それから会社を辞めさせられ、今のような生活を強いられた。最初はリハビリも「いつか治る」と思えばつづけられた。しかし一年もするとやる気はほとんどそぎ落とされた。金には国からの援助があるため困っていない。しかし何の達成感のない毎日。いつまで続くのだろうか。先は真っ暗だ。
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