大人オリジナル小説
- 存在価値 *短編集
- 日時: 2013/10/09 08:01
- 名前: あかね ◆Z8TvnklKi.
弱くて消えてしまいそうな少年少女の
精一杯の想いを一つの翼に乗せて運んでいく
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- Re: バイバイ ( No.1 )
- 日時: 2013/10/09 08:02
- 名前: あかね ◆Z8TvnklKi.
【第一話】 バイバイ
別に、僕らは付き合っているとか
そういうような関係じゃなかった。
ただ単に同じアパートで育って、
同じ学校に通っている、それだけだ。
一緒に過ごす時間は少なくはないけど、
最近は高校受験というもので会話が少なかった。
「ナコちゃん、県大会で優勝したらしいわね。
あんたと同じ受験生なのに、凄いわぁ。
それで明星高校を目指してるって、本当に感心」
昨日、そんな母親の声が聞こえたけど、
あえて中学生男子らしく無視をする。
“そんなところで変なこだわり持ってるの”
ナコ――水原菜子の呆れ半分な声が聞こえたきがした。
心の誰かが返事をする。
“くだらないのが取り柄だ”
遠回しに、勉強をしろ、と言っているあの人は
取り敢えず適当にスルーしよう。面倒だから。
そう思い、ふらっと散歩に出掛けた。
小さなアパートの小さな廊下を歩く。
すると、聞きなれた声が後ろに響いた。
「ケイ、何してるの?」
僕の名前をすらっと呼んだのは――ナコ、だった。
「散歩。おまえみたいに頭が良くないんで。
勉強から逃げてんだよ。おふくろが五月蝿いから」
「そう」
あっさりとした返事に、少し驚いた。
いつもはもうちょっと笑ったりするはずだ。
だが、ナコは悲しげな表情をする。
何を考えているのかが分からなくて、怖い。
「羨ましいな。わたしも、強くならないと」
「は? 十分強いだろ。弓道、優勝だって?」
また、見たことがないような陰りが。
幼なじみ程度の関わりである彼女の顔に過った。
「物理的に、じゃなくて」
「……僕は頭悪いんだけど?」
「そういう意味じゃないよ、もう」
苦笑いだった顔が、ふわっと微笑んだ。
「んじゃ。また明日」
軽く言って、コンビニへ向かう。
帰りが遅くなり過ぎるとそれはまた面倒だからな。
「ケイ」
「ん」
「……」
間が開いて、ナコはそっと唇を開いた。
「わたしのこと、どう思ってる?」
自分の鼓動が、はっきりと聞こえた。
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