大人オリジナル小説
- 習作
- 日時: 2015/12/10 12:36
- 名前: パソコンの角で頭を打っても死ねない
――――僕は、優しくなんか無いんだ。
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- Re: 習作 ( No.1 )
- 日時: 2015/12/10 12:40
- 名前: パソコンの角で頭を打っても死ねない
もう何年も窓を開けていない。インスタントラーメンの缶やポテトチップスの袋、脱いだ衣類が散乱している。親が部屋を片付けようと何度も言ってくれたが、部屋に入るなりパソコンの充電コードを切りそうなので部屋には入らせない。トイレと風呂の時以外は、外に出ない。パジャマのままパソコンのディスプレイの前に座り、画面を猫背になって覗き込む僕を、君は笑うだろうか。俗に言う、引きこもりの僕を。こんな子供を持って僕の親は迷惑しているのだろう。しかし、僕は嫌な思いをしていない。汗水一滴たりとも流さずご飯が食べられて、嬉しい。必要なものは、全部親が揃えてくれる。今の暮らしには、満足していた。 しかも、退屈もしない。
今から、毎日の日課を始めよう。パソコンを立ち上げ、インターネットを起動する。行きつけの掲示板にアクセスすれば、自分が投稿した書き込みに返信されているのが分かる。さっそく、それに返信をする。ちゃんと考えて。しばらくすると、その書き込みに返信が返ってくる。その繰り返しだ。つまらない遊びだと言われてしまえばそれまでかもしれないが、これが僕の人間関係、コミュニケーションなんだ。感覚的にマウスをクリックし、主張を抑えた発言の中に感情を少しだけ混ぜる。一旦投稿をしてしまえば、あとは待つだけ。それを繰り返し、永遠に遊べると言うわけだ。とはいえ、朝は人が少ない。僕はいわゆる常連さんだから、いつでも返信出来るが、子供が集まる掲示板なので、昼は学校に行っている子が多いのだ。音楽でも聞きながら気長に待とう。そう思って、ヘッドホンを装着した。音楽を聞きながら、ブラウザの窓を増やし、情報を頭に入れていく。それを繰り返すと、意識は画面の中に移っていく。頭がふわふわして、思考が固まっていくのが分かる。でも、いつまでも、やってていいんだ。これ以外の僕なんていないんだから。そう思って、一日中、パソコンの前に座っている。
時間だけが過ぎ、夕方になった。でも、僕にとっては、朝も昼もない。夕方になってはじめて、学校から帰ってきたであろう子供達が僕の返信を頻繁に返してくれるようになった。数秒単位で、返信をする。
掲示板の内容は様々だが、ここでは既存のキャラクターになりきったり、自分でキャラクターを作ったりする。僕は、クールな男の子を演じていることが多い。黒髪の短髪で、切れ長の目をして、赤いパーカーを着ている男の子だ。耳にはイヤホンをつけている、という設定だ。
「しーくさんは学生さんなんですか?」
しーく、とは僕が使っているハンドルネームだ。いつも絡んでくれている子からの質問だが、自分が引きこもりだと言うことは言いたくない。僕は嘘をつくことにした。
「そうだよ。学校って大変...」
「そうですよね!勉強も大変だし、友達との付き合い方、難しいです」
学校へは、数年前から行っていない。友達がほとんど居なかったし、勉強も大変だったこともあるけど、やっぱりパソコンをしたくて学校に行かなかったことが原因だったと思う。学校に行きたくなかった。悪口を言われるから。宿題はしないから先生に怒られるし、他の生徒は後ろ指を指して笑うだけだった。僕は確かに、陰口を叩かれていた。学校には僕の居場所は無かったのだ。ここなら、誰も僕を無視しないし、言ったことに返信を必ず返してくれる。そう思って、返信を返すことに集中する。
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