大人オリジナル小説

ティターニア・ヴェンデッタ
日時: 2018/03/13 16:37
名前: 鷹


 全部失った。
 見渡す限り、炭と灰と塵と屑。まるでそこに森があったことを忘れたように、広がるのはただ真っ黒な荒野。
 倒木の炭と折り重なるようにして、焼け朽ちた同胞の骸が何千という数横たわっている。煤を頬につけた彼女は、ただ一人生き残っていた。
 人形の黒い塊を抱き抱えるように持ち上げようとする。しかし、芯まで炭化した遺骸は、ぼろぼろと虚しく腕の隙間から崩れ落ちた。

「何故だ。私たちが、何をした」

 憎い。
 私の同胞を手にかけた人間が。
 許せない。
 私たちの居場所を奪い取った人間が。
 殺してやる。
 私たちを裏切った浅慮な猿どもを。

 ピーターに、アン。シャイーリャにラシル、ヴァルハ、ユミル、ヘンディ、マルッカ、ハルドス、ケイン。名を上げればきりがなく、彼女の大切な者たちは皆、今や燃え尽きて天へと昇った。
 妖精の住まう地は、古来から不可侵の地だとしてきたはずなのに、どうしてこんな。魔を祓うとされる聖樹を中心に、半径数十キロにも及ぶその広大な土地は、全て紅蓮の業火に飲み込まれた。
 中心に聳えた聖樹も、聖剣の前ではただただ無力で地に伏して。もはや妖精など、端からいなかったかのように地図は塗り替えられてしまった。

 彼女は、ひたすらに目から涙を、背中からは血を流し続けていた。アゲハ蝶のような美しい羽は、激しい戦いのうちに根元からむしりとられ、ぼろ布のようになった後に仲間と共に失った。

 泣いた。身体中の水分が全て無くなるほどに。いつしか背中の血は止まっていた。あまりに多くの血を失い、なお水を失い続ける彼女。生きているのもおかしいくらいに、泣き続ける。
 泣いて哭いて涙を流し、嗚咽に恨み言を押し潰されて、ひたすらに悲しみに溺れ怒りをたぎらせ。心の中全てを鈍色の絶望と白い喪失感とどす黒い憤怒とで埋め尽くした時だった。

 瞳の色は飢えた狼のように紅く。背に生え直したその羽は、オオルリアゲハのように、瑠璃と闇とに染まっていた。

 これは、妖精を束ねる女王ティターニアの、復讐の話。


〆本編

〆挨拶
鷹の人です。
テンポの悪い、そして読みづらい小説をいつも書いてますが、テンポよく、読みやすいものを書く練習にスレ立てしました。
コメントとかあると嬉しいなとか思ったり思わなかったりするのでぜひお気軽に……

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