大人オリジナル小説
- 雪娘たちと転校生(第1話)転校生
- 日時: 2018/11/17 10:33
- 名前: 斎藤ロベール
雲一つない青空のもと、横たわる純白の大地が遠く彼方へと広がる。日の光に輝く一面の雪は、大地も人の心をも青空に向けて開かせる。太陽はあくまで明るく全てを照らし、人智を超えた存在を、地に立つ人にふと予感させる。北国の冬が暗く淋しいとは限らない。
朝の教室だった。森村豊の前に、薄緑色の瞳の美しい少女が立っている。その少女の周りにも、青や茶色の瞳をした金髪の白い少女たちが、森村を囲んで立っていた。
「全部脱がなくていい。あれだけ出して見せて。」
森村はズボンのチャックを自分でおろした。
「ほら、みんなも触って。ちゃんと玉があるよ。保健の教科書、誰か持ってない?」
周りの少女たちは、一人ずつ、好奇心一杯の指先で、男の証拠を確認した。
「ねえ、精子、出してみせてよ。」
「こんなに女子がいるんだよ。手伝ってあげるから。」
冷たい床の上に寝かされた森村のズボンが少女たちに下ろされた。
「今日からみんなのお友達になる森村豊君です。お父さんのお仕事の都合で、内地から引っ越して来られました。男子の少ない学校ですし、このクラスにも男子は初めてだから、みんな仲良くしてあげて下さい。」
学校は分校とでも言うべき小ささだった。生徒も少なく、二年生から四年生、そして五、六年生はそれぞれ一つのクラスになっていた。一年生はいなかった。
担任も女教師、クラスメートも女子ばかり、しかもその姿形が日本人でないとなれば、孤独な転校生である森村が、友達作りを最初から諦めたとしても、仕方ないことだったろう。まさに外国に放り出されたような感が森村にはあった。
ただ、帰りたいとか、学校に行きたくないとかいう不満を森村が親に言うことはなかった。それまでも森村の家は転勤続きだったし、どこの土地にも嫌な奴はいて、特に留まりたい場所とてなかったことと、暫くすればまたどこかへ引っ越すのだという諦念が、この少年には習慣となっていたからだった。
そんな気持ちと裏腹に、森村は、ただ男子であるというだけで、クラスの女子には充分興味深い存在なのだった。
「ほら、出そうとしてみなよ。どうやるの。」
七人しかいないクラスでただ一人、森村と同じ六年生である薄緑の目の少女は、指で森村のものを何度も弾きながら言った。美しくまた大人びて見えるアナスタシヤというこの少女が、クラスを取り仕切っているのだった。
「興奮するとボッキするんだって。射精はそれからみたい。みんなで触ろうよ。」
ここ、北の大地に広がる文化経済特別行政区は、六十余年が経過した現在、すっかり寂れた様相を呈していた。それは行政の責任ではなく、一種の特異な事故のせいであった。住む人々に異変が生じたのである。
人体に現れた異変は、病気や奇形ではなかった。それは継続的な、言わば一つの進化なのかもしれなかった。男はモンゴロイドの姿に、女はコーカソイドの姿に分化したのである。コーカソイドは、当時、特区に在住していた隣国の住民の姿であった。
国家の要観察区域に指定された特区に対して、人々の移動に法的な規制は掛からなかった。原因不明だったからである。だが、自然、転入者は減り、転出者はしばしば差別の対象となった。
森村豊がこの特区の、しかも田舎町に引っ越してきたのは、生物学者である父親の希望転勤の故だった。
「手だけじゃ男子はだめなんだよ。あたし、パンツ脱いで見せてあげる。」
クラスの中でも特に色白で小柄の、鼻にそばかすのあるナターリヤが森村の顔を跨いで立った。彫りの深い眼窩から青い瞳で森村を見下ろすナターリヤは、スカートの下のタイツを腿まで下げると、森村の鼻づら目がけてしゃがみ込んだ。
「うっ!」
森村が呻いて体をよじったのが、においのせいだと分かっている少女たちは、恥ずかしそうに、また意地悪そうにくつくつ笑った。
「よく見ないとだめだよ。」
ナターリヤは尻を両手で広げて見せた。しかし、全く森村の目は尻にふさがれていて、見せたいところは口と鼻とに擦り付けられていた。
森村がむせ返ると、少女たちの笑いはますます大きくなった。
「先生来ちゃうから後にしよ。」
突然アナスタシヤが言った。アナスタシヤの手の中では、森村がロケットのように硬く勃ち上がっていた。
アナスタシヤは、ほかの女子に気付かれないよう、握って隠しつつ、クラスメートを解散させた。
森村の学校からの帰り道は、アナスタシヤと同じ方角だった。二人の家はごく近かったのである。アナスタシヤは森村と並んで歩いた。
「女のを見た感想は? 初めて?」
「なんかよく見えなかったけど、臭かった。変なにおいがした。」
「男子はにおい違うの? ボッキしたよね。嬉しかったんでしょ。」
森村は答えなかった。
「あたしの、見せてあげるよ。見たいでしょ? それで射精して。」
森村は黙っていた。
「見たいかって聞いてるのよ。」
アナスタシヤは森村の腕をつねった。
「痛い!」
「こっち、来て。」
道路脇の杉林に森村を連れていったアナスタシヤは、向かい合って立つと、森村の腕をぐいと引き、自分のズボンに入れさせた。パンツの中にまで押し込んだら、脚を開いた。
森村には初めての、知らない違和感だった。
アナスタシヤは、寒さのせいでなく頬を上気させている。
両脚の真ん中が何もなく、溝になっている。丸く盛り上がった前の骨がはっきり分かった。
アナスタシヤはその溝の奥へ森村の指を押し込んだ。肉のあいだが深く凹んで奇妙に濡れていた。二本の指はますます濡れていく。どこからぬめりが来るものか探ろうと、森村は指を適当に動かしてみた。柔らかないぼのようなものを根元に挟んだ。
「うっ!」
アナスタシヤは低く唸ると、腿を固く閉じて身を強張らせ、強く森村に抱きついた。少女の長く茶色い髪は、苦味のある花の香りだった。
少女は口に口を押し付けてきた。森村の唇を舌が割って入った。森村が、挟んだ指を止めずに動かしていたら
「あ、は、ああん。」
アナスタシヤが不自然に腰をくねらせた。それから首を仰け反らせ、しゃがんでしまった。自然、森村の手は少女のズボンから抜けて出た。
「あ、あたし、おしっこ少し漏らしちゃった。あんた、女の子のこと、詳しいのね。」
森村はかぶりを振った。それから、白く濡れている指を、アナスタシヤの見ている前で嗅いでみた。
「やっぱり変なにおいだ。」
「やめて。」
強い調子でなく、恥ずかしがりながら言った少女は、緑の瞳をきらきらさせながら、挑戦的に
「いっそ舐めてみれば。」
男の知らないものだからだろうか。嗅ぎ直してみて、不思議にも、他人の唾より汚くないと感じた森村は、そのにおう指を口へ入れてみせた。
「うそ!」
目を見開いた少女の顔は真っ赤になった。手袋をしたままの両手で口を覆った。
「本当にそんなことできるの!? あたし、あんたのこと、大事にする! 約束する。」
「じゃあ、普通に友達になってよ。」
指を嗅ぐのはやめないで、胡散臭そうに森村はそう言った。
これを機として、みな一様に女子たちは優しくなった。もともと、アナスタシヤに従わされていただけだったから、その圧力がなくなれば、誰も意地悪などする気は無かったのである。
ただ、付き合い方を知らない少女たちと森村とは、そのきっかけを、いつでも遡って最初の行為に求め直した。誰にとってもそれが一番簡単な、知り合うための思い付きだったからである。
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