大人オリジナル小説
- わたしと舞って
- 日時: 2019/02/08 17:58
- 名前: 藍いろ
あの人と目が合ったのだ。
ダークスーツを着こなす、美しい人。
だけれど肌は真っ白くて、白黒のコントラストが強烈だった。
私は夢を見ているんだ、そう思った。こんな美しい人が、こんな薄汚れた駅のホームに立っているはずがない。
私は一瞬、目を逸らした。でも、もう一度見た。
すると、どうだ。黒い人が、向かいのホームでにこり、微笑んでいた。私を見て、微笑していた。
蛇に睨まれたカエル、ということわざが頭をよぎった。私は、あの人を畏怖した。
その瞬間、電車がホームに入ってきた。
- Re: わたしと舞って ( No.1 )
- 日時: 2019/02/08 18:09
- 名前: 藍いろ
「アキちゃん、どうしたの?」
友達に聞かれた。
「ううん、なんでもない。」
「なんでもない事ないでしょ。ずーっとうわの空で。」
友達は、怪訝そうに私を見た。
そう、何でもないことなんかない。ずっと黒い人の微笑みが、私の頭を支配していた。「寝ても覚めても」なんて表現が日本語にはあるけれど、まさしく今の私はそれだった。
「ね、アキちゃん。もしかして、好きな人でも出来たの?」
ドキリとした。私の友達は鋭い。確かにこれは恋に近い。私はあの人に惹かれているのだから、ある種「恋」と呼べる。
「恋……かも。」
私はそれだけ返した。でも友達はウンウンと深く頷いて、「じゃあ仕方ない。」なんて言いながら、私をまじまじと見た。
「アキちゃんの好きな人ってどんな人?イケメン?」
顔は……よく分からない。駅のホーム越しに見たのだから。でも、顔立ちは整っていた気がする。
「イケメン……かな。」
自分にそう言い聞かせるように答えた。そうだ、あの人はイケメンだ。
「え、じゃあどこで会ったの!?私も見たいんだけど!」
面食いの友達は、一気に食い付きが良くなる。でも駅のホームで見ただけで、面識はないなんて言えない。
「んーと……駅前で、うん。」
うやむやにしたつもりだが、友達は「じゃあ駅行こ!駅!」と、教室の戸締まりをし始めた。