大人オリジナル小説

「四捨五入」の心理トリックに気を付けろ 〜外数〜
日時: 2020/02/22 21:32
名前: 山本蒼紫

薄暗いオフィスで、女が鼻歌を歌いながら封筒からお金を出して眺め、ニヤリと笑った。目の前のボードに張られた紙には、『四捨五入(ししゃごにゅう)して1ページ2万円』と書いてあった。

〜算数課〜

雷が漫画を読んでいる。

雷「え!?まさかこんなトリックが…」
電「いい年して漫画なんか読んで」
雷「面白いのよ。初月さんの新作。『音楽刑事』ド!レ!ミ!」
電「音楽刑事ドレミ?」
雷「音楽が得意な刑事が音楽に関する事件を解決していくのよ」
電「妙に親近感が湧きますね」
雷「でしょ?フフフ…」

ATTENTION!ATTENTION!(コール)

ナウス「電、雷、事件デス。出版社デ横領ノ疑イガアリマス。『音楽刑事ドレミ』ノ作者、初月サンカラ通報ガ入リマシタ。初月サンニヨリマスト、編集者デアルクルエラ・ド・ヴィルガ漫画ノ原稿料ヲ密カニ横領シテイルトイウノデス。本当カドウカ、調査ヲヨロシクオ願イシマス」
雷「横領って、会社のお金を盗んでいるって事よね」
電「はい。出版社に行くのです!」
雷「ええ」

〜出版社・オフィス〜

クルエラ「会社のお金を横領!?」
雷「通報があって…」
クルエラ「そんなの出鱈目よ」
雷「ん…?数字の臭いがするのです。クルエラさん、これは?」
クルエラ「漫画家へ支払う原稿料の社内の決まりよ」
電「1ページ2万円…」
クルエラ「およそ2万円よ。うちでは、四捨五入して2万円になる金額と決まっているの」
雷「四捨五入…」
電「数字の4以下を切り捨てて、5以上を切り上げる事なのです」
雷「およそ2万円…」
三日月「刑事さん」
クルエラ「社長!」
三日月「ははははは…クルエラが不正なんてする筈ありません。常に会社の決まりである四捨五入して2万円、イチキュッパ!とかで抑えてくれているんです!」
電「イチキュッパ…19800ですか」
三日月「ラララ、ラーラーラーラーラー♪ははは…ラララ、イチキュッパ♪ははははは…!」
クルエラ「もう宜しいかしら?来月号の打ち合わせがあるの」
電「お時間取らせたのです」

〜出版社・廊下〜

???「原稿料…ん〜、原稿料…僕の原稿料…はぁ…はぁ…」
雷・???「痛っ!!」
???「イタタタタ…」
雷「大丈夫?」
???「ええ」
雷「あなたは…初月先生!?」
初月「あ、ああ」

〜算数課〜

電「クルエラさんがあなたを騙していると?」
初月「ああ」
電「詳しく話を伺えますか?」
初月「クルエラは嘘吐きなんだ。原稿料は1ページおよそ2万円と聞いた」
電「およそ2万円という約束だったのですね」
初月「合計100ページ書いたから200万円貰えると思ったのに、実際には150万円しか貰えなかったんだ。計算すると、1ページ15000円だ」
電「しかし、15000円は四捨五入すると2万円なのです」
初月「四捨五入?」
電「はい。会社の決まりで原稿料は四捨五入して2万円と決まってるそうなのです。雷ちゃん!千の位で四捨五入して2万になる数の範囲は?」
雷「えっと、15000から24000ね」
電「はぁ…図を書いて確認してみるのです」
雷「はい」
電「(タブレットを開く)最も小さい数は、15000なのです。じゃあ、最も大きい数は?」
雷「あ、24999だわ」
電「その通りなのです!15000円は範囲内ですから、残念ながらおよそ2万という彼女の言葉は嘘ではありません」
初月「いや…でも、まだおかしな点があるんだ。これを見ろ。原稿料が振り込まれた時の記録だ。振込みの名前がクルエラなんだ。普通は出版社の名前だ」
電「ん!たしかにおかしいですね」
初月「それにクルエラは、『およそ2万円。例えば、イチキュッパ』って言ったんだ。イチキュッパ…19800円と言われてまさか15000円だとは思わんぞ!」
電「まぁまぁまぁまぁ…」

スッテーン!(雷が転ぶ)

電「イチキュッパ…」

〜電の回想〜

三日月「常に会社の決まりである四捨五入して2万円。イチキュッパ!」
電「イチキュッパ…19800円ですか」

〜終了〜

電「なるほど!不正のトリックが分かったのです!」

〜出版社・オフィス〜

クルエラが鼻歌を歌いながら封筒のお金を見ている所へ電達が現れた。

電「(鼻歌を歌う)遅くまでご苦労様なのです」
クルエラ「何か用かい?(封筒を引き出しに仕舞い込む)」
電「じー…(封筒を見る)」
クルエラ「(引き出しを閉める)」
電「これを見てもらえますか(タブレットを広げる)」
雷「千の位で四捨五入すると、2万になる数の範囲よ。15000から24999よ」
電「次に、こちらを見るのです」
雷「これは、百の位で四捨五入すると2万になる数の範囲よ。19500から20499よ。どこの位で四捨五入するかによって、同じ『およそ2万』でもこんなに違うの」
電「初月先生はあなたから『およそ2万円、たとえばイチキュッパ』と聞いたので、この下の図を思い描いたのです。ところが実際に支払われたのは上の図で、最も少ない15000円でした」
クルエラ「それは先生が勝手に勘違いしたの」
電「いいえ、巧妙な心理トリックなのです」
クルエラ「15000円は四捨五入したら2万円になるわ。だから私は嘘を付いていないわ!」
電「ええ、先生に大してはね。しかし、社長に大してはどうでしょう?」
クルエラ「え?」
雷「これは社長から借りて来た領収書よ。金額は19800×100ページ。198万円よ」
電「しかし、先生に支払われたのは150万円なのです。差額の48万円はどこに行ったのでしょう?」
クルエラ「それは…」
電「引き出しの中の封筒に入っているんじゃないのですか?」

電「あなたは初月先生と社長2人を四捨五入の心理トリックを利用し、不正に会社のお金を盗んだのです。つまり、あなたは社長からイチキュッパ、19800円の100ページ分、198万円の原稿料を受け取り、初月先生には150万円しか払わなかったのです。こうやって残りの48万円を騙し取ったのです!これは四捨五入を巧妙に利用した、悪質な犯罪なのです!!」
初月「何日も徹夜して書き上げたんだぞ!!」
クルエラ「いいじゃない!!漫画家は人気が出れば儲かるんだから、少しぐらい貰ったって…」
電「少しなら許されるという犯罪はないのです。罪は性格に償ってもらうのです!」
クルエラ「…(項垂れる)」

END

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