大人オリジナル小説
- ブラバン
- 日時: 2020/05/24 22:47
- 名前: TAMASA
上篠貴樹(31歳)は、インターネットで中学3年の夏まで過ごした中学校のホームページを見ていた。
今年の3月で廃校になることがわかった。
当時のことを思い出した。
運動音痴だった上篠は、吹奏楽部と卓球部のどっちに入部するか迷い、(卓球部に入部しよう)思っていたら、
「吹奏楽部の方が楽しいんじゃなか」と父が言った。
父は、中学高校と美術部だった。大学ではフォークソング部でギターを弾いていた。ギターの方はちっとも上手くないが、絵の方は上手い。今も油絵を描いて、家に飾っている。
父の言葉で何気なく吹奏楽部に入部したが、まさか同じ部員の女子とセックスをすることになるとは思わなかった。
吹奏楽部に入部した初日、チューバを演奏している3年が、上篠に目を付け
「大丈夫だから」と言って、上篠を連れて行き、チューバを見せて
「大きくてかっこいいだろう。吹いてみたいだろ」と言い、
「はい」と言うと、
「じゃあ決まりだな」と言い、
上篠はチューバを吹くことになった。
1ヶ月後、
「今日から、低音パートで練習しろと言われたんですけど」と、バリトンサックスを持った身長の高い女子がきた。
「森村喬美と言います」と背の高い女子は言った。
少人数の部のため、全員がレギュラー=コンクールメンバーだった。
7月まで、コンクールで演奏する【リートニア序曲】を練習し、
8月の夏休みは、運動会で演奏する曲の練習をし、
2学期は11月まで、文化祭で演奏する曲の練習をした。
文化祭が終わると3年生が引退し、低音パートは上篠と森村の2人になった。
11月から3月までは、パート練習だった。休憩時間、漫画やアニメの話をした。
中学3年の夏休み、練習が終わり家に帰ると、父が倉庫を整理していた。
「貴樹、一週間後、引っ越すことになった」
「転校するの?」
「そうだ。市外だからな」
翌日、森村に転校のことを話した。
引っ越す前日、森村は上篠をデートに誘い、ラブホテルに連れて行った。
「最後に、私としよ」
セックスをした。
翌日、上篠は引っ越した。
農業高校を卒業した上篠は、畜産業に就職し、車を買い、森村の家に行ったが、森村の一家もまた引っ越していた。
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- Re: ブラバン ( No.1 )
- 日時: 2020/05/24 23:02
- 名前: TAMASA
上篠は、廃校になる中学の卒業式の日の夕方に、中学校に行った。
廃校になるためか、結構、人がいた。
(全員、卒業生なんだろうな)
「上篠じゃないか」
「塩田に上野」
「16年ぶりだな」
塩田と上野は同級生だった。
塩田はトランペット、上野はトロンボーンを吹いていた。
「みんな今でもここにいるの」
「上野は今でもここにいる。上野の実家は衣服店だからな」
ここは、ど田舎だった。地元で、衣類は、上野衣類店しか売ってない。
音楽室に向かって校舎内を歩いていると、ピアノの音が聴こえて来た。
3人は音楽室に入った。女子中学生がピアノを弾いていた。
「星川さん」
女子中学生は、3人の男を見た。
「でも何で、歳を取ってないんだ?」
「私は星川香苗と言います。ひょっとして母の同級生ですか?」
「そうだよ。星川香夏子と同級生で、同じ吹奏楽部だった。星川さんと一緒に来たのかい?」
「母は、先月、交通事故で死にました」
星川香夏子は、小学生の時からピアノを習っていた。
小学6年の時に、地区内にある小学校の小学6年生による合唱コンクールで、どの小学校も【勇気一つを友にして】を合唱した。星川のピアノは、他のどの小学校の児童のピアノ伴奏より上手かった。
中学では吹奏楽部でフルートを吹いていた。フルートも上手かった。
「俺は中3の夏に転校したから知らないけど、その後、みんな同じ高校に行って吹奏楽部に入ったの?」と上篠は聞いた。
「星川だけは、寮のある私立の吹奏楽強豪校に行ったな」
上篠たちのいた中学の吹奏楽部は弱小だった。
進学先の高校の吹奏楽部も普通だった。全国を目指すところではなかった。
「星川には物足りなかったんだろ」
「香苗ちゃん、星川は音楽の先生かフルートかピアノの演奏家になったの?」
星川は、将来は音楽の先生かフルートかピアノの演奏家になると言っていた。
「いいえ、母は、シングルマザーで新聞配達で働いてました」
『15年前』
1月、
「星川、俺たちと同じ高校に行かないのかよ」
「ごめんね」
3月、
香夏子は、旅立って行った。
4月、
香夏子が入学した吹奏楽部は、レベルが違っていた。例えるなら、小学校のテスト問題とセンター入試問題の差ぐらいはあった。
音楽の天才と言われた香夏子だったが、部員全員が香夏子レベルよる上だった。
今でこそ、youtubeで吹奏楽コンクール全国大会に出場した高校の自由曲の演奏を聴くことが出来るが、
1990年はインターネットの無い時代で、吹奏楽強豪校の自由曲のレベル、演奏のレベルがわからなかった。
強豪高校の自由曲のレベルは高く連符ばかりで、香夏子は良い音なら出せるが、連符が出来なかった。
高3の6月、
香夏子は、3年最後のコンクールのメンバーにすら選ばれなかった。
夏休みに入ると、練習には参加せず、街中をさまよった。
最初に声をかけてきた40代の男とセックスをし、処女を捨てた。
寮に戻らず、声をかけて来た男とラブホテルに行き、セックスを繰り返す毎日を送っていた。
2学期に入り、気分が悪くなり保健室に行くと、妊娠していたことがわかり、両親が来た。
「相手は誰なんだ?」
「知らない」
「知らないだと?」
「名前も知らない20人以上の男とセックスしてたから」
「吹奏楽で全国に行くんじゃなかったのか?」
「メンバーに入れなかったんだからしょうがないじゃない。私なんて井の中の蛙だったのよ」
「堕ろせ」
「産むわ。1人で育てる」
高校を退学した香夏子は、新聞配達員として働き始めた。新聞販売店の店長が資金援助をしてくれた。
香苗が産まれ、ピアノを教えた。
今年の2月の早朝、香夏子は新聞配達中に、寝不足のトラックドライバーのトラックと衝突し死んだ。
「そんなことがあったのか」
「母は、中学時代の吹奏楽部が、人生で1番楽しかったと言ってました」
上篠と塩田と上野は、線香を上げに、星川家に行った。
「そういえば、昼過ぎに、母と同級生で吹奏楽部だった人が2人来ましたよ」と香苗が言った。
「誰?」
「2人とも背の高い女性でした。1人は180p以上ありました」
「ひょっとして、森村と岡野と言わなかった?」
「確かに、そんな名前でした」
(森村喬美、昼過ぎに、ここに来てたのか。くそ、昼過ぎに中学に着いてれば森村に会えたのに)と上篠は思った。
その夜、
上篠、塩田、上野、香苗、森村、岡野は、同じ夢を見た。
中学校の吹奏楽部で、合奏をしてる夢だった。
チューバを上篠が、トランペットを塩田が、トロンボーンを上野が、フルートを香夏子が、ピアノを香苗が、バリトンサックスを森村が、ドラムを岡野が、合奏していた。
「もうそろそろ日が暮れるから、帰らなきゃ」
香苗が、母の香夏子と一緒に帰ろうとしたら、
「ここは、香苗の居場所じゃない。香苗は自分の居場所を見つけ、歩いて行きなさい」と言った。
(終わり)
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