大人オリジナル小説
- 初恋の思い出
- 日時: 2020/06/11 18:17
- 名前: ケイ
私の初恋は実に単純なものだった。それでいて、実に恥ずかしい。君たちが思っているような純粋な話ではない。それでもよかったら、読んで欲しい。 私の初恋は、小学三年生の時だった。あの頃は恋愛なんぞに興味はない、極めて純粋な少年であった。そんな私は、授業で手を挙げるのが苦手だったから、あえて目を逸らし、先生に指されたら答えるという悪習があった。今思えば、既に中二病に目覚めかけていたのだろう。 運命の日は、算数授業の時だった。 いつものように、他所を向いていると、隣の席の人に肩を叩かれた。プリントを回収するのかと振り向いた瞬間、頬に柔らかい人差し指を感じた。彼女の悪戯に成功した時の無邪気な顔が見えた。その時、鼓動が早くなるのを感じた。これが私の初恋なのだ。そう認識している私自身に驚いていた。 私の親戚は女性が多く、高校生や大人の女性にしか、心を奪われたことが無かったのだ。その日から私は、彼女を意識するようになった。だが、この後の出来事によって、私の日常は狂ってしまった。 恋をしたからといって、何かが始まるというわけでも無い。その日はそのまま学童クラブへ足を運んだ。 ここは、I〜3年生しかいない、小規模の場所だ。でも、遊び道具は十分あるとても過ごしやすい場所だった。 偶然、女子が集まって恋バナをしていた。かなり盛り上がっていて、その横で本を読んでいた私はうるさかったことを彼らに言えず、イライラしていた。だからだろうか、つい口を滑らせて言ってしまった。「自分だって好きな人ぐらいいるよ」と。すると、まるで気がつかなかったようにしていた女子達が、自分を取り囲んだ。かなりしつこく言うようにしつこく強要されたついに信頼している妹だけに話すことにした。恥ずかしさを堪え、なるべくゆっくり伝えた。その瞬間、妹は大声でその人の名を叫んだ。「〇〇チャンだって~」と。そして彼女に親しい友人が、「じゃあ後で言っておくね。」と言った。その時、私は初めて人前でキレた。妹に馬乗りになって、初めて人を殴った。先生に止められて終わった。自分が情けなかった。 次の日、学校に行くのが怖かった。噂が広がっていることを恐れた。しかし、顔を真っ赤にして怒った自分の姿を見たからか、広がることは無かった。 この事件から、私は彼女のことを忘れたいと思って昼休みは図書館で過ごすことにした。しかし、彼女を観察して後を追うストーカーとなって3年が過ぎ、6年生の三学期。 彼女は中高一貫校を目指すのだと聞いた。特に勉強が出来るわけでもない私にとって、最後となるだろう。だが、最後に失敗した。私はやっぱりアホだった。 その日は、その年初めて雪が降った日の事だった。みんな外に出て、凍った地面を滑っていた。私も彼女の靴が下駄箱に入っていないのを確認して、滑りに行った。けっこう人がいて、時々ぶつかりそうになった。その中に、上手く滑れず、尻餅をついていた彼女を見つけた。当時の私は、孤独のヒーローに憧れており、いわゆる中二病だった。カッコつけながら、彼女に手を差し伸べ、立ち上がらせた。そして去ろうとしたが、彼女はそれからも何回か転んでいた。その度に手を差し伸べていた。その時の私は、ただ純粋に小鹿を見守る親鹿の気持ちに似た感情だった。そして、早めに図書館に行って時間を潰して教室に入った時、女子の話し声がした。「えっ。それって〇〇の事好きなんじゃないの?」3年前の言いふらそうとしていた友人だった。そして彼女もいた。私は教室に入ったが、机に突っ伏すことしか出来なかった。そして私の初恋は終わった。 彼女は、無事中高一貫校へ行ったらしい。私は市立中学校へ行った。今思えば、この感情は、「恋をしている自分」に溺れていただけに過ぎないのかもしれない。けれど、もしこの体験がなかったら、私は中学で一生残る傷をつくることを防いだのだと信じている。
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