大人オリジナル小説
- 戯構築世界ノ終末戦線
- 日時: 2023/02/25 15:09
- 名前: htk ◆jXi8pdgzNQ
作者にはほぼオンラインゲームの知識がありませんが、VRものです
内容は主に、NPC側の視点を主題とした物語にしようとは考えていますが、プレイヤー視点の話もよく挿話で挟まれたりして、読み手を選ぶ構成かもしれません
作者の稚拙さもあって、まだまだ作中内のゲームの設定が煮詰まっていないので、場合によってはいつの間にか大幅改訂される場合があります
なるべく読み返さなくても良いような修正に留めようとは考えていますが、そのあたりは先々の展開によって左右されてくると思いますので、予めご了承して下さると助かります
以下、目次
1話目=>>1
2話目=>>2
3話目=>>3
4話目=>>4
5話目=>>5
- Re: 戯構築世界ノ終末戦線 ( No.1 )
- 日時: 2023/02/25 14:04
- 名前: htk ◆jXi8pdgzNQ
プロローグ〜〜序話ーー副題(未定)
山の中だ。
疲れた足でふらふらと辿り着いたのは、大きな樹の根元ーー。
ーーそこで何かが陽光を照り返し、視線を奪われたのが最初だった。
辺りは此処だけ手入れでもされているかのようで、とても山中とは思えない。
まるで大きな樹を避けるかのように疎らで広々とした、木々の広間ーー。
ーーそこへ足を踏み入れ、暫く佇んでいた。
静かだ。
くたびれた両足で膝立ちとなったのは、力無く俯いた俺ーー。
ーー冴えない顔をした、見るも無残な男だった。
身に付けた鎧はひび割れ、砕けた破片は何処へ落っこどしてきたかーーもう確認のしようも無い。
戦闘の最中に手入れも忘れた頭はボサボサで、気付くと前髪が目に掛かって鬱陶しい。
仮にこの姿で平民の前に出れば、次の瞬間には悲鳴を上げられるだろう。
ここまでいえば分かりそうだが、そうーー俺は敗残兵だ。
敵勢の攻勢に命からがら落ち延び、どうにか隠れ潜んだ山中で途方に暮れている。
「……ア゛ァ゛」
ひとまずの安堵から口を開け、それまでの疲れとも溜め息とも付かないような声が漏れた。
詰まったような響きだ。
久しぶりに聞いた自身の声を聴くと決まって、喉元を抑える癖がある。
硬くなった皮膚の上をなぞる無骨な手ーー。
ーーちょうど喉仏の下あたりにあるのは、縫い傷の跡だった。
既に痛みを感じる事は無くなったが、何かの拍子に声を出す度、自分が唖=[ー喋れない事を思い出す。
国軍で順調に出世しながらも思わぬ傷を負い、指揮能力無しと見做されたのはーー既に過去の話だ。
今では俺を降格させた上役も戦死していて、護るべき対象だった国もーーもう以前の姿には戻れないだろう。
暗い予測を振り払うように俺は首を振り、前方に何かを見付けたのがーーつい先程だった。
大きな樹の根元でキラキラと輝いたように見えたのは、近付くと分かったがーーキノコだ。
そういえばお腹が空っぽだったのを思い出し、空腹感に襲われる。
真夜中をずっと戦い続け、朝日が差した今の今まで何も食べていない。
突如として現れた敵勢の夜襲で、国軍は輜重隊の準備すらままならず、腹一杯まで食べた記憶が随分と昔の事のように思えた。
よたよたとふらつきながらも樹の根元まで足を運び、そこで跪くーー。
ーーどう見ても、食用のキノコだとは思えない。
キラキラと輝いて見えたのは周りに散った胞子だろうがーー肝心のそのキノコの見た目は如何にも毒々しい。
紫と緑のまだらな傘はどうしたって食欲をそそらないし、柄の所々に浮かんだ突起からは泡にも似た粉が吹いているようにも見える。
どう見ても、毒キノコだろう。
食べればどんな症状が出るかは、此処に鑑定士でも居なければ分かりようが無いし、素人目で見ても見た事の無い品種だ。
それでも俺は、幾つか生えたその大きなキノコの一つをーー手に取った。
あっさりと抜けた柄を握り、考え込む。
どうせ今から山を出ても敗残兵を狩るべく、追っ手が動員されているだろう。
疲労困憊の俺が生き延びられる可能性はーーはっきりいって乏しい。
連戦に次ぐ連戦で、もう手足から力が抜けきっているのがはっきりと自覚出来てしまう。
それなら潔く自決をーーと考えたところで、根元からすっぱりと折れた剣ではどうしようも無い。
捕まって処刑されるか、僅かな可能性を求めて逃げ続けるかーー。
その二つの選択肢に加え、今ーー俺の手の中には第三の選択肢があるーー。
ーー自ら死を望んでいるわけでは無いし、死という現象に恐怖感が無いわけでも無い。
しかし、生き延びる望みを絶たれた現状でどうやって生き延びれば良いのかーー俺には分からなかった。
運良く何処かの町へ逃れても、唖≠フ身だ。
商家の奴隷として雇われれば良い方で、他者との遣り取りが出来ない男の先行きを誰が慮ってくれるだろうーー?
こちらが喋れなくなったのを良い事に自分の失敗を押し付けてくる輩は軍にも居たし、それは町であっても変わらないように思える。
絶望感に打ち沈んだが、同時にーー淡い期待が胸の内に広がった。
この毒キノコを食せば、楽になれるーー。
ーーそうした確信じみた希望が膨らむばかりで、他の選択肢はこの時、既に切り捨てていた。
よしーー。
ーー暫しの黙考の末に意を決し、手にした毒キノコを口元へ運んだ。
味は悪くない。
逃亡で喪われた水分が吸収され、全身へと拡がるのを感じた。
程良く弾き返してくる弾力も、しっかりと味付けすればそう悪いものでは無いだろう。
だがーーそう思ったのは最初だけで、突然の頭痛と吐き気、手足の痺れと意識の混濁に襲われた。
「……ア゛ァ゛ク゛ッ゛ン゛ナ゛イ゛!?」
自分でも、何を言っているのか分からない。
ある程度の苦痛は予期していたし、相応の苦しみも覚悟の上だ。
俺は樹の根元で這い蹲り、何度目かの失神と覚醒を繰り返した。
吐き気はあるのに、そもそも何も食べてこなかったせいで吐くものすら出てこない。
手足の痺れは全身に広がり、ジリジリと身体を覆われるような気持ち悪さが酷かった。
そして、極め付けはーー頭がいったい何分割されたのかと思う程の頭痛だ。
練兵場で装具も付けずに訓練していた時でさえ、これ程の痛みを味わった事は無い。
自分が今俯せなのか仰向けなのかも分からない時間が、それが永遠であるかのように続いた。
苦しく、辛いーー。
ーーいったいいつ終わるのかと何度考えたのかも記憶に無く、もし此処に誰かが居ればどんな魔物が出たのかと思う程の呻きを上げる。
「……ウ゛ク゛ゥ゛ッ゛ア゛カ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!?」
まるで猛獣のようだ。
俺はこれから山中の人喰いにでも生まれ変わるのかと思う程、身体をのた打たせていた。
いっそ、獣になっても構わないーー。
早くこの苦痛を終わらせてくれーー。
ーーそう何度願ったか、既に軽く100回は越していただろう。
これなら敵勢の手で拷問の末、処刑された方が幾らかはマシだったかもしれないーーとも思えてくる。
「……ウ゛ア゛ク゛ァ゛ッ゛ル゛ク゛ゥ゛ゥ゛ウ゛!!!
フ゛テ゛ィ゛タ゛ウ゛……」
助けてーーとでも、この時の俺は叫んだのだろうかーー?
正直、あまり覚えていない。
助けてくれるような誰かが側に居るわけも無く、俺の目の前にはとうとうーー幻覚らしきものが見えてきた。
そして、耳には何処となく非人的なーー人らしさを感じさせない幻聴が響く。
〈ーー/
システムメッセージを受け取りました。
これより、当該NPCのアップデートを開始します。
NPC制限の一部解除ーー。
ーー暫くの間、お待ち下さい。
/ーー〉
謎の声を聞いたような気がした末、俺はまた意識を手放した。
次話=>>2