@ そばにいる / 土*沖 / 3Z設定
「ひーじーかーたーさあん。 今日、自転車貸してくだせェ」
「あ? 何でだよ」
「姉上んとこ――行かなきゃ」
「……そうか。 じゃあ、俺が乗せていくか?」
「いいでさァ。 土方さんの後ろなんて死.んでも嫌ですねィ」
「てめ、言いやがったなこの野郎」
「いつものことじゃねーですかィ」
開き直った総悟は、そこで一息ついて、俯き加減に言った。
「……まあ、今日だけは乗ってやってもいいでさァ」
「何でお前は上から目線なんだよ! ったく、乗るんだな?」
「乗りまさァ。 ――お願い、しやす」
「…………」
――
総悟の姉――ミツバ――は、若くしてこの世を去った。
姉ちゃんっ子だった総悟は、あの日から6年経ったいまでも、墓参りをしている。
ただひとつ、変わったことといえば、泣かなくなったことくらいだろう。
――多分、こいつはまだミツバのことが大好きなんだろうな。
そんな総悟を、俺はずっと見てきた。
それこそ、ミツバよりもずっと長く、近くで――だ。
「姉上、来やした。 1年ぶりですねィ」
自転車から降りて、ゆっくりと歩いて行った。
無表情なのはいつものことだが、ミツバのところに来ると少しだけ明るくなる。
――いつも、そうだ。
あいつが笑顔を見せるのは、ミツバに向かってだけ。
俺でさえ、めったに見たこともない。
そこが、少しだけ悔しかったりもする。
墓石に書いてある名前を、白く細い指でなぞる総悟は、もう少しで泣きそうな顔だった。
――
「もう、いいのか?」
「いいでさ」
総悟は、微笑った。
「帰りやしょう、土方さん」
そういって、手を出した。
今日はやけに素直なんだな――やっぱり、ミツバのおかげか。
差し出された手を、上から包み隠すと、総悟はつぶやいた。
「土方さんは、俺を置いてかねーで下せェ」
んなことつぶやくもんだから、思わず引き寄せてしまった。
「置いてくわけねーだろ。 ――俺はいつでも、お前の側にいる」
「――あ、りがと、ございやす。 気持ちだけ受け取っておきまさァ」
「おめーが言ったんだろうがよ!」
こいつを、1人になんかしねえ。
そう決めた――いつかの春の日。