@ 無防備な君
「おい、それはどういうことだ……?」
「ど、どしちゃったの、総悟……」
「……そんなん、俺が知りてえくらいでさ。 朝、目が覚めたらこんな……」
沖田総悟。 銀魂高校3年Z組。 本日より、女子になりました。
「いやいやいやいや! 何でィこの適当なくだりは!」
「でも、本当のことだろ」
「うーん。 総悟はやっぱ女子でも可愛いね!」
「目腐ってらァ……」
高杉、神威と話していた沖田は、はあ、と大きくため息をつくと、自分の席に座った。
――男子用の制服では、袖が余る。
かといって、姉上は数年前に他界した。 そのときの制服はもうないだろう。 ていうか姉の制服を着るなんて男として情けなさすぎる。
Yシャツの胸部分が微かに膨らんでいることから、いま言ったことは決して嘘ではないということが伝わってくる。
いや、むしろ嘘であってほしかったのだ。 自分的には。
「どーしたもんかねィ……」
沖田は、天井を向いていた視線を下にずらし、ぷちり、とYシャツのボタンをはずし始める。
しかし、その行為は高杉によって止められた。
「おい。 お前、いま女なんだろ? 自覚持て、自覚」
「ええー……いいじゃねえかィ、どうせ言うほどの大きさでもないし」
大きさ、とはもちろん胸の大きさのことであった。 確かに、微かに分かる程度の膨らみは若干小さめではある。
手をだらしなく垂らした沖田は、ぼうっと高杉と神威の双眸を見つめた。 特に神威は何とも間抜けな顔をしていた。 笑いのネタにはなるだろう。 反して高杉は、険しい表情でこちらを覗いていた。
「沖田ァ」
「何でィ」
「その無防備にさらすのやめろ。 あと呆けるな。 襲われんぞ」
「はっ、んなわけねえだろィ。 並大抵の男子なんか俺に勝てるわけがねえ」
「――言える義理か?」
「は?」
意味が分からない、とでも言いたげに沖田は首をかしげる。 ついでに、思い切り眉根を寄せる。 高杉が、不敵な笑みを浮かべたとき。
――沖田の世界は、真っ白になった。
正しく言えば、高杉のYシャツが視界全体にあるわけで。 神威が小さく舌打ちしたのを、高杉は愉しげに聞いていた。
状況のつかめていない沖田の腕を引っ張り、高杉は耳元で囁いた。
「だから、言ったろ? ――言える義理じゃねえって」
「――ちっ、女だと反応も鈍くなるんですかィ……」
忌々しげに、沖田は眉根を寄せた。
この日、何度目か分からないため息をまたついた。
無 防 備 な 君
( ちゃんと気をつけとけよ、沖田。 俺以外に犯されんな )
( 馬鹿じゃないのタカスギ。 総悟は俺のだから )
( はいはい。 襲われねえように今日は殺気9割増でさァ )