文学青年なんて言ってみる。ただのちょっと本が好きな20代男子だ。
いつもどおり人間観察を気取ってただボーっとしていたときだった。そいつは突然現れた。なんて出だしにはよくあるけれど、でも本当に突然だったんだ。そいつは大きな声で俺の名前を呼んだ。
「京谷 涼(きょうや りょう)さん!!いませんか?」
「・・・・・・え」
「誰か知りませんかー?」
「え、あ・・・」
「メガネに細身の男性ですー!」
「あ!あの!!」
くっそ!名乗り出しづらいな!!もう!俺はきょろきょろしているその男の肩をたたいた。
「すいません、俺・・・ですけど」
「京谷さん!」
勢いよく俺に近づくそいつはいわゆるイケメンというやつだった。男から見てもカッコいいってやつ
。多分俺と同い年くらいだろう。
「これ!さっき落としましたよね?ていうか、それで名前知ったんですけど」
「財布・・・マジか!!?」
それは確かに俺の財布で、クレジットカードとか、これからあとで買いものしようと思ってたからそこそこ所持金も入っている。ヤバかったな、本当に助かった。気づかない俺もどうなんだろう・・・あれだ道端で中身確認してそのあと鞄から出たんだな、ボーっとしてたのが悪い、ホントに。
「あ、あの・・・ありがとうございました」
「財布の中、勝手に見ちゃってすいません」
「いえ・・・あ、よく俺のことメガネとかかけてるって・・・」
「ああ、目の前だったんですよ。すれ違って、すぐ渡そうとしたんだけど人ごみに紛れていって、そのまま追いかけてこの店に。入りやすいカフェで助かりました、すぐそこにいてよかった」
「ほんとによかったです、助かりました」
「・・・どうですかちょっと話しません?」
「・・・へ?」
「いや、その本・・・」
これまた突然にその男が指をさしたのは、テーブルの上の読み終わった本。カフェで繰り返し読もうと思ってカバンから取り出していた。ずいぶん前から楽しみにしていた続編なんだ。
「俺も大好きなんですそのシリーズ」