それからしばらくたって、何度か一緒に食事をした。会って何を話すかって言われてもほんとうに普通だった。健も俺も文系で大学の講義も実はかぶってるものが多く、出会う機会は多かった。そのうち俺は健の彼氏ではないかという噂が周りに立ち始める。こいつはカミングアウトしているゲイで、実は今までに何度か彼氏もいたことがある。俺の友達で最近彼女に振られた悠太(ゆうた)が俺に話しかけてきた。
「おい、涼!」
「おー悠太、久しぶりー」
「久しぶりーじゃねえよ、お前噂になってるぞ?」
「ああ、知ってるよ」
「んな!・・・まさか、本当なのか?」
「そんなわけないじゃん、友達だよ」
「だってあいつゲイなんだろ?・・・お前も、その・・・」
「違うよ、健はそうだけど俺は違う。別にゲイだからって友達になれないわけじゃないだろ?」
「そうかなー?俺たまにお前にある種の魅力を感じる・・・」
ん?こいつは突然何を言ってんだ?
「顔は中の上くらいで特別イケメンでもない、頭もスポーツもさしてできるわけでもなく、これと言って女にもてるポイントもない」
「・・・まあ反論はできないな」
「なんか・・・こう・・・」
「なんだよ?」
悠太はモテる。と言うか遊び人だ。見るといつも違う女の人と一緒にいる。人気軽音サークルのベーシスト。にしてはテンションが高すぎると思うが・・・じろじろと人のこと見やがって、
「これだ!」
そう言うなり俺の右の目元を指でつく。
「何をする」
「メガネと泣ぼくろ・・・が色気を醸し出している」
「お前はついに頭まで浸食されたのか?妹にくぎ刺しとくわ・・・」
「いや、お前の妹さんと美紀ががそう言ってたのは確かだけど、ほんとにそう思うよ?」
「だから影響されすぎだろうって、」
俺の妹の由香と悠太の妹の美紀は腐女子仲間であり、よく悠太の家に遊びに行く。この間悠太が彼女に振られてからしばらく傷心の悠太をからかっていたようで。
「いやーでも、健さんはハイスペックすぎだよな、高身長、細マッチョで理事長の息子、女子から絶大な人気を誇るが真性ゲイ。物憂げな表情がお前と話すときは満面の笑顔と来た」
今ではこのありさまだ。お前はどこを目指している、武道館ライブじゃなかったのか・・・
「俺と話してる時だけじゃないよ。他の人にも別に笑顔だと思うけど」
「それが、お前と話し始めるようになってからだってよ。なんか話しやすくなったって女子が」
そうなのか?ま、俺と健の間に特別な関係はない。
「まあ、とにかくその噂はでたらめだって」
「じゃ、お前やってないんだな?」
「やって・・・て!?そんな噂まで流れてるのか!?」
「ああ、健さんがどうとかより、お前が処女を奪われたとかいう噂の方が多いぞ、誘惑してるとか、すごい淫乱だとか」
「・・・お前ちょっとこっち来い」
人通りの多いところで話すな!てか、誰が、いつそんなことしたっていうんだ!・・・てか処女ってなんだ、俺は女か!?
「そんな、怒るなって!」
「怒るわ!ありもしない話聞かされて」
「じゃ、お前キスもまだ?」
「残念ながら」
「俺が先だったからな!小学校の時の薫ちゃん」
「覚えてるよ、幼馴染に先こされた俺の気持ちがわかるか!」
「はっ、とりあえずよかったわ、お前が手出されてなくて」
「出されるかって。てか誰が出すっていうんだよ、俺男だぞ?」
「んーたとえば俺とか?」
「な?」
・・・キスされた
「・・・え?」
「びっくりした?ま、こういう輩がいっぱいいるから気を付けろうよ涼、お前は狙われている!」
そう言いながら俺に指差してウインクを一つ。・・・この野郎・・・からかいやがって女泣かせ!
「・・・・・・おま!ふざけんな!俺で遊ぶな、遊び人!!」
「はははっ、またなー涼ー!」
そう言ってスキップをしながら去っていく悠太、あいつと話すとたいてい嵐が吹き荒れる・・・つまり疲れる。・・・からかうためにわざわざ舌入れやがってあのやろう。だから女と長続きしないんだろうが。最近は危ない輩とつるんでるって噂も聞くし・・・噂ならいいんだけど。